2024/02/27
能登半島地震 視察記
■断水が続く中で事業を継続する民宿
輪島市に着いたときにはとっぷりと日が暮れていた。宿泊した「お宿たなか」の周辺はどの方向を見てもつぶれた家ばかりという状態で、その中に「お宿たなか」はしっかりと建っていた。輪島市は今も断水が続くため、食事やお風呂の提供はできないが、それでもよければと泊めていただいた。トイレは使用していない浴場に「ラップポン」という災害時用のトイレが設置されており、それを使わせていただいた。食堂は自由に使わせていただけたので、自分たちで持ち込んだ食料で食事を済ませた後、経営者の田中孝一氏(60)に話を聞いた。田中氏は震災後10日間ほど、ボーっとしてしまい、何をしていいかわからなかったのだという。お嬢さんのご主人の友人が瓦屋さんだったことから宿の復旧の話が持ち上がり、これをきっかけに田中氏は復旧に向けて動きだすことができたのだそうだ。今後の復興プランに話題が移ると、田中氏が温めてきた構想を語り始めたのだが、その内容は細坪氏が提案しようと考えていたプランと驚くほどシンクロしていた。田中氏の熱い思いはとどまるところを知らず、意見交換は夜遅くまで続いた。
■甚大な被害を受けた輪島
翌18日は輪島市内を視察した。火災で延焼した朝市や、大きく傾いた店舗、道路を左右から埋めるように崩れる家屋。ここも危険度判定の紙は赤、赤、赤、ときどき黄色という状態だ。道路の補修が優先されたのだろう、歩道には液状化のために地上に突き出したマンホールが散見された。道路の補修は進んではいるが、倒壊したがれきの撤去はあまり進んでいないため、一本裏通りに入ると通れない道が多い。
海に面した輪島マリンタウンの催事場には、輪島市地域内拠点として支援物資を保管するための大きなテントが設営され、様々な県名が書かれたビブスを付けた人々が支援物資を避難所ごとにピックアップしてまとめる作業を行っていた。
このあと朝市のある市街地から海岸沿いを通り白米千枚田を経由して震災直後に孤立した被災者が出た輪島市町野町(まちのちょう)に向かったのだが、千枚田を超えたあたりで突然道路が通行止めになっていた。ここまでの道も山肌が崩落して片側しか通れない箇所や道路が大きく陥没している箇所が頻出していたのだが、この先は応急復旧工事がなされていないということで、やむなくUターンして輪島の市街地に戻り、別のルートから町野町に向かった。
■被災しながら経営を続ける復興の青写真
町野町にある「スーパーもとや」を訪ね、3代目社長の本谷一知(かずとも)氏(46)氏と母の理知子(りちこ)氏(73)にヒアリングさせていただいた。今は電気は復旧しているが、断水は続いている。震災直後は停電が続き、商品を保存していた冷凍庫の中のものが全滅した。「傷みはじめた商品を捨てるのは本当につらかった」と本谷氏は悔しそうに話した。現在でも生ものは扱うことができないままだ。しかし本谷氏の話を聞くと、彼らはこの震災をポジティブな好機ととらえていることがわかってきた。少子化が進む集落でのスーパーとしてのビジネス展開について、震災以前から家族で討議を続け、すでに青写真が作られていたのだ。その詳細は以降の記事で明らかにしていく。
以降、シリーズで視察先の企業・団体の現状を報告していく。
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