(画像提供:サニーカミヤ氏)

今年の8月20日、埼玉県草加市新田中学校、小学校のほか幼稚園や保育園の先生約80名が集まって、地域の災害特性を踏まえた学校防災(特に地震と綾瀬川氾濫対策)として、下記のような内容で防災・危機管理ワークショップを行った。

・教師による各種災害(地震、水害、噴火、竜巻)時の初動対応と生徒コントロール
・教師による避難所開設手順と要領、初動運営から自治会等への権限移行、再校まで
・浅間山等噴火対策(帰宅避難要領、校内の火山灰対策)
・災害別生徒の引き渡し手順(引き渡し場所、タイミング)
・校内外不審者対応(不審者の見分け方、秘密撮影等情報証拠収集)
・生徒や不審者が刃物を持って暴れ出した時の対応法(パイプ椅子を使った防御手順)
・生徒や不審者による化学テロ予防(校内の危険物管理と屋内消火栓などを使った除染)

など


2時間の限られた時間だったが、学校や保育園などで発災した場合の職員や先生方の動きなどの具体的な対応手順を、教える年齢の違う先生方でグループを作り、想定を状況予測し、対応を発表する形の実践型シナリオワークショップとなった。

先生方の防災・危機管理意識と知識のレベルは非常に高く、地震、水害、噴火、不審者などの各災害手順を、自分たちが現在置かれた状況に合わせて優先順位をつけて発表されていた。普段から、学校や教育の場で発生しうる防災・危機管理について、かなり訓練されていることを感じた。


●学校保健安全法(危険等発生時対処要領の作成等)

第 29 条 学校においては,児童生徒等の安全の確保を図るため,当該学校の実情に応じて,危険等発生時において当該学校の職員がとるべき措置の具体的内容及び手順を定めた対処要領(次項において「危険等発生時対処要領」という。)を作成するものとする。

2 校長は,危険等発生時対処要領の職員に対する周知,訓練の実施その他の危険等発生時において職員が適切に対処するために必要な措置を講ずるものとする。

3 学校においては,事故等により児童生徒等に危害が生じた場合において,当該児童生徒等及び当該事故等により心理的外傷その他の心身の健康に対する影響を受けた児童生徒等その他の関係者の心身 の健康を回復させるため,これらの者に対して必要な支援を行うものとする。この場合においては, 第 10 条の規定を準用する。

(※「危険等発生時対処要領」=「危機管理マニュアル」「防犯マニュアル」「防災マニュアル」「不審者対応マニュアル」「災害発生時対応マニュアル」など)


文部科学省は、学校が上記のマニュアルを作成しやすいように「学校の危機管理マニュアル作成の手引」を作成しており、各学校に具体的な内容を情報提供している。

■学校の危機管理マニュアル作成の手引(文部科学省)
第 1 章  危機管理マニュアルについて
第 2 章  事前の危機管理
http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/__icsFiles/afieldfile/2018/02/28/1401870_001.pdf

■学校の危機管理マニュアル作成の手引 (文部科学省)
第 3 章  個別の危機管理
第 4 章  事後の危機管理
http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/__icsFiles/afieldfile/2018/02/28/1401870_002.pdf

参加された先生方の平均年齢は約38才と若く、皆さん自然災害対応は、かなり具体的な避難動線や避難中の危険予知まで考慮するなど、研究されていた。

また、不審者対策では、警察等による実戦訓練も行っていたということもあり、学校防災意識・危機管理意識が高く、しっかりと発災時の初動対応ポイントを抑えられていた。

しかし、例えば実際に教室にナイフを持った暴漢者が入ってきた時、職員室までさすまたを取りに行って戻ってくる、あるいは大声で誰かを呼んでさすまたを職員室から持ってきてもらうなどすると、時間はどのくらいかかるのだろうか。

今までの校内殺傷事件など、ほとんどの犯罪は15分程度で終わる。職員室にさすまたを取りに行っている間に全ての殺傷が終わってしまう可能性もあるということに気づいた先生も多かった。

アメリカでは学校テロに関するトレーニングを実施

アメリカでは、生徒の年齢や発達に応じた学校テロに関するトレーニングが実施されている。闘うことよりも安全を重視し、迅速に避難し、鍵を掛けて隠れたり、バリケードなどを作って、ナイフや銃を持った犯人の接近を避けたりするなどの訓練を実施。さらにそれらをいかに早くできるか、ストップウォッチを使って生徒が自分たちで命を守るための判断や対応スピードを高めている。

それでも避難が遅れ、ナイフを持った犯人と教室で直接対峙してしまった場合はどうすればよいのだろうか。最終手段として、犯人がナイフを持っている側の手(ほとんどは右利き)を制御すれば、刺される可能性が低くなる。椅子の背もたれのある側を犯人のナイフを持った手の方に向けて持つことで、ナイフを持つ手のリーチが届きにくくなることもある。

またどの教室にも、椅子は生徒の人数分ある。パイプ椅子の脚でナイフを落としたり、さすまたのよう使ってに犯人の身体を抑制したりするなど、そこに在る道具を最大限利用することで、生徒の命を守るための具体的な方法もご紹介した。

以下に、アメリカの「学校の危機に対する安全対応手順、活動、および訓練について」をまとめたので参考にしてほしい。

■「学校の危機に対する安全対応手順、活動、および訓練について」
https://irescue.jp/PDF/school_safety.pdf

学校が⾏う危機対応訓練は、⽣徒の発達と認識レベルに焦点を合わせ、かつ教師や職員などの役割や認識レベルも考慮に⼊れなければならない。

ここにおいての認識レベルは、⼀般的なガイダンスとして使われるものであり、保育園児、幼稚園児、⼩学⽣、中学⽣、⾼校⽣など、個⼈の認識と対応能⼒は、それぞれ個々に違うことを前提としている。

危機管理マニュアル作成時において⼤切と思われることは、「個々⼈が学校における危険をどのように認識し理解しているか」という知識や理解度を分析することだ。そして発達段階における能⼒を具体的に評価することで、発達に⾒合った段階的な訓練メニューなどをつくることができると思われる。

この資料の引⽤元(アメリカの学校教育局の安全&予防対策)は下記の通り。

■Best Practice Considerations for Schools in Active Shooter and Other Armed Assailant Drills
https://nasro.org/cms/wp-content/uploads/2014/12/Best-Practice-Active-Shooter-Drills.pdf

■Drills and Exercises: Guidelines for Schools - CMS –
ARIZONA DEPARTMENT OF EDUCATION SCHOOL SAFETY AND PREVENTION JUNE 2015

https://cms.azed.gov/home/GetDocumentFile?id=595519a53217e10f0055e46a

下記のビデオでは、いかに早く生徒達が自ら命を守るかを訓練している様子がわかる。


Proactive Lockdown Drill (School Shooter) (出典:Youtube)

他校の例ではあるが、実際の事例についても簡単に紹介した。

生徒から暴力を受けそうになった時の身構え方や生徒がナイフを持って襲ってきた場合の対応法や、生徒が校内にある薬品を使って行う化学テロ。暴力行為のあった生徒に過剰防衛にならないための受け方や生徒のパニックコントロールなど、さまざまな視点でディスカッションしたりするなど、学びの多いワークショップになった。

次のステップは、下記のビデオにあるような教師による生徒への救急対応訓練だと思う。


Disaster Drill (出典:Youtube)

今回のワークショップで素晴らしいと思ったのは、先生方の横の繋がりが強いことだった。災害発生時は相互協力が重要であることをしっかりと意識されて、普段から顔のつながりを保持するために夏休み期間中の研修機会を作るなどして、継続的に保持されている。

もし、学校防災や危機管理対策について、

「学校における危険等発生時対処要領」
「校内危機管理マニュアル」
「校内防犯マニュアル」
「校内防災マニュアル」
「校内不審者対応マニュアル」
「災害発生時対応マニュアル」

などの作成サポートやアドバイスにご興味がある学校関係者は、下記から、ご連絡下さい。

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
https://irescue.jp
info@irescue.jp