2018/12/28
葛西優香の23区防災ぶらり散歩
「ふだん」と「そのとき」はつながっている
日々の業務そのものが防災対策…というのは、住民にとっても言えることでは?
日々の暮らしが同時に防災対策になるといいですよね?と投げかけると、「その通りです」と大浦さん。
「さまざまな課題を抱えた方たちを、災害時に全員無事に避難所までお連れすることは、私たち役所の人間にはどうしてもやり切れません。たとえば一人で避難できない高齢者は、そのとき、どうするのか?障害児を抱えたお母さんは?災害時に手助けが必要な人への支援は、平時のお付き合いがなければ、災害時にいきなりやろうとしても、どこに誰がいるのか、わからなければどうしようもありません」(大浦さん)。
「だから私たちは今、町会の方たちとともに、名簿の活用について検討しています」名簿の活用?名簿とは?どういうことでしょう。「災害が起きたときに、一人では避難が難しい方をあらかじめ登録しておく名簿を『災害時要援護者名簿』と言います」(大浦さん)。
サイガイジヨウエンゴシャ…。難しい言葉ですね…。
「要するに、災害の避難時に手助けが必要な方の名簿ですね。豊島区では、『愛の手帳』(療育手帳)をお持ちの方(1~4)、要介護認定を受けた方(3~5)、身体障害者手帳をお持ちの方(1~4)に該当する方、などです」(大浦さん)。なるほど災害時の共助の仕組みとして、そんな名簿がつくられ、地域で共有されているのですね。
「2013年3月からは、本人が同意しない場合以外は原則として名簿に掲載する『手さげ方式』を採用しています」(大浦さん)。
そうなんですね。
「でも、せっかくつくったこの名簿が『つくって終わり』になってしまっては意味がない。だから私たちは、ふだんから、その名簿を活用して『いざというとき』に力を発揮できるよう、町会の方たちと知恵を絞っています」(大浦さん)。
具体的にはどんな知恵があるのでしょう?
「一言でいえば、ふだんから『顔の見える』関係をつくることです。災害時の避難に手助けが必要な方は、ふだんの生活にもなんらかのご苦労があるはず、と思いませんか?」(大浦さん)。
たしかに。
「そうした関係だけでもあれば、やっぱり災害時の対応は違うと思うんですよね。そしてその関係は、ふだんの『見守り』にも生きる。何かあったら大変なのは、ご本人にとっては災害が起こっていても、起こっていなくても、同じですからね。だから、ふだんの『見守り』と災害時の手助けはつながっているんです」。
この点、豊島区の強みは、大浦さんたちの災害対策グループが保健福祉部の中に創設されていることです。だから、福祉マインドが強く、平時の「見守り」と災害時の対応をつなげて考えやすいのです。ふだんの挨拶や何気ない会話の延長線上に、いざというときの助け合いがあります。
考えてみれば、これは区役所職員でも、町会役員でもない、一人の豊島区民としてできることなのかもしれません。
例えばまちを歩く時、周りを少し見渡しながら歩いてみませんか。公園で遊んでいる子ども、見守る妊婦さんがいらっしゃるかもしれない。そしてベンチに座っているご高齢者の方が想像しているよりもたくさんいらっしゃるかもしれない。今、住んでいるまちを見渡して、現状に興味を持ってみると何かが見えてくる気がします。
みなさんも、地域の方との会話の中で、それとなく意識してみてはいかがでしょうか?「災害のとき、手助けが必要な人は身近にいるか。その人に何かできるか…」と。
次号は、保健福祉部との連携を一緒に検討されているNPO法人「障害者の避難」についてお話を伺います!
■関連記事
第8回【豊島区】(上)防災は全区総出で平時から取り組むべきこと
訓練でできないことは有事の際もできない
http://www.risktaisaku.com/articles/-/12335
(了)
- keyword
- 23区防災ぶらり散歩
- 豊島区
葛西優香の23区防災ぶらり散歩の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方