震度6強以上で倒壊の可能性が高いとされるニュー新橋ビル

家族・地域ぐるみの取り組みを

東京では3月29日の建築物の耐震性についての都による実名公表は大きなインパクトを与えた。都は災害時に人や物資の輸送に重要な特定緊急輸送道路が沿道建築物の倒壊で通れなくなることを防ぐため、旧耐震基準の建物に耐震診断を義務づけるなどの沿道建築物の耐震化推進条例を2011年に制定した。さらなる耐震化促進に向け、加藤氏が委員長を務める委員会で2017年1月から7回の会議を重ね、実名公表前日の3月28日に対策を盛り込んだ報告書案をとりまとめ、5月31日に最終報告書が発表された。

6月末時点での緊急輸送道路沿道建築物の耐震化率は84.3%。都が2016年に改定した計画では、2019年度末に耐震化率90%、2025年度末に100%を目標に設定した。報告書では達成に向けて、耐震性を満たさない建築物の公表や所有者への指導、さらには未耐震化の建築物の賃借人の協力も必要で、移転費用などの支援も検討すべきだとしている。

加藤氏は個人が抱える災害リスクは周囲への影響が大きい公共性のある危険と、それが小さい私的な危険があるとしたうえで、「災害時に大きな役割がある緊急輸送道路の沿道の未耐震化建築物は、公共性のある危険と言わざるをえない」と語り、耐震化は必要だとした。一方で「耐震化をしたくてもできない理由が多くあることもわかっている」と指摘。例えば古いマンションで耐震化を進めようとすると、ブレースが空中で土地の境界をはみ出したり、入口をふさいだりして生活に必要な機能を損なうケースがある。ビルの賃借人の場合、高価な機器を設置している医療機関などは莫大な移転料がかかることも考えられる。

都では賃借人など建築物の占有者が耐震化のための協力に努める責務を定めた条例改正案を、2019年第1回都議会定例会に提出する方針を固めている。賃貸住宅の住民だけでなく、対象となる物件のテナントとなっている企業にとっても、社会的意義が問われることになる。

ただし加藤氏は、都の耐震化への補助は手厚いとしたうえで、「耐震化が進まないあらゆる理由やケースを考えて、都は住民へのコンサルに努め、悩みを抱える対象者を解きほぐす必要がある」と説く。「耐震化の必要性をアピールしたり、補助制度や窓口を準備したりというだけでは不十分。例えば引っ越しや工事が難しい高齢者については、家族ぐるみで支援を行うというアプローチも大事。地域ぐるみの取り組みにつながれば、協力者も増える」と加藤氏は述べ、行政による粘り強い相談や住民らの悩み解消のための支援の重要性を語った。都では所有者への個別訪問なども行っているが、対象者に寄り添った行動が今後も求められる。

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(了)

リスク対策.com:斯波 祐介