日本国内でNGO(非政府組織)というと、国境なき医師団や赤十字などを思い浮かべる方が多いかと思われますが、海外では災害分野におけるNGOの活動が盛んで、特に、イタリア、アメリカが先進国です。被災地での豊富な経験を基に、国への提言もなされ、非常に重要な役割を担う組織もあります。そんな国際NGOの1つ、Rescue Globalにて、災害対応の訓練に参加してきました。今回は、その訓練の様子を交えながら、彼らが考える災害対応のポイントについてご紹介いたします。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年3月25日号(Vol.48)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです(2016年9月6日)。本稿は著者がロンドン大学に在籍していた当時に執筆したものです。

Rescue Globalについて
Rescue Global(以下、RG)は、人命救助を目的に、「発災時の緊急対応▶減災▶復旧・復興▶予防」という危機管理サイクルの全段階を通じて、体系的かつ総合的な取り組みを行う国際NGO団体です。大きく分けて、災害リスクの軽減と災害対応の2つのミッションを掲げています。 

NGOながら、現地と相互運用可能な独自の通信設備やシステムを持ち、現場への意思決定や指揮統制などを行い、実際の危機や災害対応での経験を他セクターへと展開・共有し、国単位でのレジリエンス強化に貢献しているのです。

 

当日の訓練概要と目的
訓練は、与えられたシナリオに対して、のスタッフとRGして、どのように災害対応の計画を立てていくか、というものでした。クラスメイト計21人が3グループに分かれ、1チーム7人、うちリーダーが1人という形で訓練が進められました。

冒頭、当日の講師でRGリーダーのトリスタン・ウィンフィールド氏からは、「この訓練を通じて、RGが提唱する、7つの問題(7Questions)の計画プロセスを理解すること、どのように指揮命令・行動指示が出されているかを理解することが目的である」と訓練への期待が寄せられました。

 

タイムラインで時間を区切ること 
訓練開始後、すぐさま会議が開かれ、チーフプランナー(指揮・統制者)より今回のシナリオが言い渡されました。イギリスのデボン州ダートムーアに台風が上陸し、家屋などに大きな被害が発生するという内容です。 

シナリオの他、印刷済のテンプレート(リソース登録表、リスクマトリックス図、リスク登録表、シーケンス図、過去24時間に発生したイベント同期表、意思決定表等)と模擬の被災地であるダートムーアの詳細な地図が提供されました。

さらに最初の会議では、各グループ内でリスク・情報・計画・ロジスティックの役割分担が決められ、いつの時点までに何を進めなければならないのか、7Questions(詳細は後述します)に沿ってタイムラインを明確にし、メンバー全員と共有しました。災害現場は、人命がかかっているので、対応にもスピード感が肝心で〝時間を区切る〟という考え方が非常に重要です。

正しい意思決定を実現するOODAループ
おおまかな流れとしては、各自の役割に応じて「分析▶分析結果をまとめる▶計画決定▶実施」という作業を繰り返しました。RGでは、OODAループを使ってタイムラインを区切りながら、継続的に災害対応を管理する重要性を説いています。

このOODAループはアメリカ空軍由来の正しい意思決定を実現するためのモデルで、監視(Observe)・状況判断(Orientate)・意思決定(Decide)・行動(Action)のサイクルを繰り返します。「災害時は、間違った意思決定・指揮をしないように、このOODAループをリスク管理のプロセスに重ね合わせ、素早く回す必要がある」と、ウィンフィールド氏は繰り返し強調していました。

 

7Questions 
下記が7Questionsです。

Q1.状況リスクは?
Q2.要請内容は?
Q3.効果は?
Q4.支援に適した場所は?
Q5.リソースの割当は?
Q6.協働作業方法は?
Q7.統制手段は?

訓練は、7Questionsに沿って作業を進めていきます。特にQ1からQ3の分析が非常に重要であり、時間をかけなければいけない、と説明されました。また、それぞれのQごとに、現在の進捗状況を会議で共有していき、前述のOODAループを回していきました。 

初めに、現在の情報から被災地の状況(人口やインフラ、天候、被害者数等)を確認し、現在利用できる人材や資機材等をリソース登録表に記入していきました。また、二次災害等のリスクを洗い出すとともに、おおまかな支援内容やミッション、成果や目標の検討をしました。 

シナリオだけでは状況が不明確なことが非常に多く、メンバー内で原因と結果を特性要因図(魚の骨の形をしていることからフィッシュボーン・チャートとも言います)等を使って、ブレインストーミングしながら、分析を進めました。そして、影響度、発生の可能性でリスクマッピングをし、どのリスクに対応しなければいけないのかという優先順位を付け、評価し、リスク管理表に詳細を記入していきました。ここまでがQ1〜3となります。