東日本大震災における緊急地震速報

地震の発生直後に、強い揺れを予測して警告する「緊急地震速報システム」 。東日本大震災では、東北地方を はじめ多くの地域に地震の揺れが来る前に速報を流した。一方で、今回のように断層が広い面で破壊される地震では、実際の地震の規模や震度より小さく評価してしまう課題も浮き彫りになった。

緊急地震速報システムは、地震の発生直後に、震源に近い複数の地震計でとらえた初期微動(P 波)の観測データを解析して震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動(S 波)の到達時刻や震度を推定し、可能な限り素早く知らせるシステムのこと。地震が発生すると、P 波(秒速約6∼7キロメートル)が先に発生し、続いて S 波(秒速約 3.5 キロメートル)が発生する。この時間差を利用することで、大きな揺れが来る前に、列車やエレベーターをすばやく制御させて危険を回避したり、工場、オフィス、家庭などで避難行動をとることによって被害を軽減させたりすることが期待される。  

緊急地震速報には、 「高度利用者向けの緊急地震 速報(予報) 」と「一般向けの緊急地震速報(警報) 」 の2種類がある。  

予報は、できるだけ迅速に発表をすることを目的に、最大震度3以上またはマグニチュード 3.5 以上と予測された場合に、震源に近い1つの観測点で 地震波(P 波)をとらえた直後から、震源やマグニチュードを推定し、到達時刻や震度の予測を開始し 発信される。その後、観測点の増加などによりデータが更新されるのに伴い、逐次更新情報が発信される。  

一方、警報は、テレビやラジオ、携帯電話など一 般向けに流す情報で、速さだけでなく、より正確なデータを流すために、複数の観測地点で観測され、 なおかつ、最大震度5以上の揺れが予測された場合 に、震度4以上の揺れが予測される地域に発表され る。原則として発表は1回だけだが、震度 3 以下とされた地域が 5 弱以上に修正された場合には発表内 容が更新される。

■東日本大震災での緊急地震速報
気象庁地震火山部によると、東日本大震災では地 震波を最初に検知してから 5.4 秒後から予報が配備され、8.6 秒後には警報が出された。  

震度、マグニチュードこそ過小に予測されていた ものの(予報では、第1報時に最大震度1程度以上と推定) 、震度6弱を記録した石巻市で6秒前、震度7弱を記録した栗原市では 19 秒、東京にいたっては1分以上前に伝達されたことが分かる。  

一方、警報については、震度4か5弱程度が宮城 県中部、 震度4程度が宮城県北部、 岩手県沿岸南部、 岩手県内陸南部、岩手県沿岸北部、宮城県南部、福島県浜通り、福島県中通、震度3∼4程度が山形県最上、岩手県内陸北部、秋田県内陸南部、山形県村山と推定された。テレビ中継では全国放送で「宮城県、 岩手県、 福島県、 山形県、 秋田県に緊急地震速報」 と流れた。警報でも、ほとんどの地域では本震の揺れより早くに発表され、 東京では1分以上前だった。 しかし、 発表の対象となった地域は、 コンピューターが震度4以上と推定した福島県以北の地域で、実際にはそれ以外にも東日本の広い範囲で震度4以上を観測していたため、こうした地域では、緊急地震速報(警報)が流れなかった(テレビやラジオでは、緊急地震速報は流れたが、対象地域からは外れていた) 。

地震火山部地震動予測モデル開発推進官の中村雅基氏によると、震度を過小評価した原因は、震源域 をコンピューターが「点」として捉えたからだという。今回の地震は、断層がゆっくりと面として広い範囲で破壊されていった。 そのため 「初期の観測データでは全体の破壊規模がわからなかった」というわけだ。  

基本的に初期の観測データだけで、面全体を予測 することは不可能に近いと中村氏は指摘する。改善 方法として、揺れを捉えた複数の観測点の地震波 データを利用して、面全体の広がりを予測すること などが考えられているとする。  

運用についても改善が検討されている。今回は地 震検知後、22 秒の時点で茨城県北部が震度4となり、発生後 105 秒の時点で5弱以上の予測に修正されている。緊急地震速報の特性としては後のデータ ほど正確になる。ただし、警報が更新発表されるのは、当初3以下と推定した地域が、5弱以上に修正 された場合のみ。

今回、茨城県北部で震度5弱以上に修正されたにも関わらず更新情報が流れなかったのは時間が経過しすぎたからだ。過去の運用では、緊急地震速報が本震の後に流れたことが問題視され、現状は 60 秒以降の更新は発表しないようになっている。更新情報を 60 秒後も流すかどうかは直ぐにでも改善できることで、気象庁では運用体制の見直しについて検討しているという。

■誤報の改善
もう1点、東日本大震災では、余震において、活発な地震活動に伴い、コンピューターが異なる場所でほぼ同時に発生した地震を1つの地震として誤っ て処理してしまうなど、緊急地震速報(警報)が適切に発表できていない事例が生じた。そのため、気象庁では、緊急地震速報(警報)の発表対象としない小規模の地震を計算の対象から外すことによっ て、2つの地震を誤って結びつける頻度を減らし、 改善を図っている。  

緊急地震速報については、運用当初から精度面や伝達速度の限界については、利用者が理解をした上で活用することが求められている。その意味では、 今回の東日本大震災で、震度の過小評価こそ課題となったが、大きな流れの前には知らせることができたことから本当の課題は受け手の意識を変えていくことだと言える。  
中村氏は「基本的には、揺れが来る前に情報を出せるようにしますが、情報を受け取った時にどのような行動をするのかということを事前に決めておくことが重要です」と話している。