東京・足立区の西新井橋付近から眺めた荒川(出典:photo AC)

全国に先駆けて試験運用

タイムラインは自然災害に対処する「人類の知恵」である。災害が想定される数日前から、発生やその後の対応まで、関係機関が災害時に何を優先して取り組むかを時系列的に定めた行動計画表のことである。被災住民、自治体、国、自治会、消防団、鉄道会社、電力会社、教育機関などのとるべき行動が一覧票にまとめてあり、各組織の動きや連携関係が一覧できる。

国土交通省荒川下流河川事務所は、同省の河川事務所としては唯一東京都内に設置されている。荒川の下流部が破堤すれば東京下町の水没は免れず首都機能は死に瀕する。荒川の洪水対策をいわば一手に引き受けているのが同事務所である。同事務所は2014年、全国に先駆け<優先事業>として洪水時におけるタイムラインの検討を始めた。2015 年5月には試行案として試験運用が開始された。荒川下流域におけるタイムラインへの取り組みを検証してみよう。

現在では試行案から試行版へと実践的改訂を行っている。同事務所によれば、このタイムラインは「台風襲来や豪雨による水災害に対応する防災行動、とりわけ標準的に行われる全体及び各機関の防災行動を、行動や準備に要する時間も考慮して平常時から時系列的に整理しておく。そのことにより時間的制約等が厳しい災害発生時における防災行動を効果的かつ効率的に行うことを目的とした計画」である。2014年8月、「荒川下流域を対象としたタイムライン(事前防災行動計画)検討会」を設置し、荒川下流右岸(東京都側)の東京都北区・板橋区・足立区内をモデル地域として、参加機関(20機関、37部局)が検討を進めてきた。

タイムラインは、終戦直後に関東地方を襲ったカスリーン台風の雨量を確率規模200分の1としている。大豪雨によってもたらされる荒川右岸の決壊による水災害を対象に、災害状況をシナリオとして、モデル地域にどのような事態が発生するかを国と地元自治体などが共有したうえで、参加機関があらかじめ決めている避難誘導などの防災行動項目を時系列的に整理し取りまとめた。

計画策定の最大の狙いは、大規模洪水により荒川が決壊し広域的に被害が発生する前に、各主体が共同して人的被害ゼロを目指した行動を整理することである。荒川決壊を0時間としてその5日前からの事前防災対応行動のうち「住民避難」「避難行動要支援者」「交通の運行状況」に焦点を合わせた行動と、その行動の主体になるのか、または協力者であるのかについてパッチワーク方式で検討・整理を行った。パッチワーク方式とは地域で最大の課題となる行動から検討に入る方式をいう。優先事項を事前に掲げるのである。