ブラジルは年間200万件超のる労働裁判を抱える(出典:写真AC)

新興国における事情

新興国においては近年の経済成長、現地労働者の権利意識の高まり等を背景に、賃上圧力が強まっており、実際に多くの新興国で大幅な賃金上昇となっています。またストライキ等の労働争議も増加しており、日本企業の現地での事業活動の中断、生産コストの上昇等のビジネスリスクは急速に高まっている状況です。

新興国においては、労務リスクが事業活動のみならず、経営にまで影響を与えるケースが多くあります。その最大の理由としては、一般的に新興国の多くが過去または現在、社会主義国または社会主義的な政策をとっていた国が多いことが挙げられます。そのため、労働者保護の色が強いことが特徴です。例えば「世界最大の民主主義国家」と称されるインドの正式名称は、憲法前文において「Sovereign Socialist Secular Democratic Republic of India」と規定されており、国家の基本が社会主義であることが分かります。

社会主義的な政治体制ではなかったものの、労働者保護が憲法で明記されていることにより、労働者保護の色が強くなったケースもあります。例えばブラジルの労働法では、1.労働者保護の原則 2.権利非譲歩の原則 3.雇用関係継続の原則 4.現実重視という4原則があるとされています。例えば法解釈に疑義が生じた場合には、労働者に有利な解釈が優先するのが通例となっています。また、複数のルールがある場合にも、労働者に最も有利なルールが適用されることとなります。さらに労働者に不利な内容の契約変更については、その効力を生じない等、徹底しています。そのため年間200万件を超える労働裁判が起きているとされています。

またメキシコの連邦労働法においても、法律の解釈に疑義が生じた場合には労働者に有利な解釈が適用されている点、雇用期間は原則として無期限で解雇の種類は「自発退職」「懲戒解雇」「会社都合解雇」(「会社都合解雇」は不当解雇とみなされ、解雇時の給与の3カ月分を支払う)等となっている点、雇用契約の有無に関わらず、業務上、使用者側に命令権があり労働者側に服務義務がある場合、雇用関係があるとされる点等の原則があります。特に解雇については、連邦労働法第47条に懲戒解雇の際に、必要な相手方への通知等の煩雑な手続きが定められているため、実際上懲戒解雇は困難とされています(解雇に伴う退職金は高額となるため、これを理由に解雇できないケースも見受けられる)。

一方、新興国では近年における急激な経済発展の過程で、海外企業の直接投資を促すために労働関連法令の整備を急いでいます。しかし多くの国で整備途上にあります。そのため実際の運用において、現地政府の裁量範囲が広く、このことが外国企業に不利になる場合も多いとされています。

(了)