2015/01/25
誌面情報 vol47
将来は商店街BCPの策定目指す
下高井戸商店街の取り組み
飲食店や生鮮食品店、生花店などの専門店から総合スーパーまで約250店舗が軒を連ねる東京都世田谷区の下高井戸商店街。2014年11月20日から12月5日まで、この商店街を中心とした生活防災フェアが開催された。町内会や学区を中心とした防災活動は全国的に展開されているが、商店街を中心とした防災活動は珍しい。防災とは縁遠いと考えられる生鮮食品を非常食に活用するなど、下高井戸商店街のユニークな取り組みを取材した。
生活防災フェアは、防災と商店街の活性化を結びつける取り組み。まず、商店街が、各店と協働で生活防災推奨商品を選定。商品に「推奨品」のカードを貼ってもらい、消費者にPRする。消費者は期間中に防災推奨商品を購入すると、抽選補助券を獲得でき、補助券3枚と引き換えで賞品の抽選に応募することができる。賞品は友好都市の北海道中川町特産のジャムや羊羹などだ。「生活防災推奨商品」とはどのような商品なのだろうか。
京王線下高井戸駅は新宿駅から各駅停車でおよそ15分。1日の乗降者数は約6万人を数える。同駅を中心とした下高井戸商店街は、昔ながらの小さな専門店が立ち並ぶ木造密集地域でもある。都内を東西につなぐ国道20号(甲州街道)に隣接しているため、東日本大震災時には新宿方面から歩いてきた帰宅困難者がなだれ込み、各店で商品が不足するなど少なからずトラブルも発生したという。
下高井戸商店街振興組合専務理事の石井健夫氏は、「東日本大震災をきっかけに、災害時に商店街でどのようなことをしなければいけないかということを本気で考えるようになった」と話す。
石井氏は取り組みを本格化させるため、震災直後から全国で商店街の活性化支援などに取り組んでいる街の元気づくりコーディネーターの久保里砂子氏に依頼し、商店街で防災に関する取り組みを考えてもらうことにした。
当初は、勉強会などを開催するとともに、同商店街の店舗カタログである「しもたかマップ」の改定に乗り出した。作成して5年を経たこともあり、マップをリニューアルするとともに防災情報を入れることにしたのだ。
しかし、単にハザードマップや防災の知識を掲載しても読む人は少ないうえに、商店街の活性化にも結び付かない。久保氏が悩んでいた時に出会ったのが、危機管理研究所代表で危機管理アドバイザーの国崎信江氏。彼女の提案する『生活防災』という考え方が、このイベントを生み出すきっかけになった。
都心住民は避難所に逃げ込めない
「生活防災」とは、災害時に役立つものを、普段から使いながら備えるという考え方。例えば冷蔵庫には平時から多めに冷凍食品などを貯めておくだけで、被災時にも3日から1週間程度は平時と同様の食事をとることができる可能性が高まる。電力が供給されない場合も、冷凍食品がアイスパック代わりになり、冷蔵庫内を冷やしてくれる。
国崎氏が生活防災を提唱する理由に、都内の災害時における「避難所不足」の問題が挙げられる。現在、都が想定する首都直下地震では、都内の最大避難者数を339万人と見込んでいる。これに対して現在の避難所の収容枠は336万人。しかしこれはあくまで「都民」だけを考えた場合で、実際には帰宅困難者など都外住民が避難所に押し寄せる可能性もあるため、なるべく避難所への負荷をかけないことが重要になる。そのためには、住民一人ひとりが普段から住宅の耐震強化や家具類の転倒防止を進めた上で「在宅避難」の備えをすることが重要で、平時から食料を多めにためておくなど「生活防災」が不可欠になる。
誌面情報 vol47の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方