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後を絶たたない火災や爆発事故。企業は自衛消防組織をどのように見直すべきか。

元東京消防庁警防部長で東日本大震災では都内近郊で起きた火災対応をはじめ、福島第一原子力発電所では緊急消防援助隊東京都隊の総隊長として燃料棒貯蔵プールへの充水活動にあたり、現在は全国危険物安全協会理事を務める佐藤康雄氏に聞いた。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年3月25日号(Vol.48)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年9月11日)

Q1大規模な火災や爆発事故が後を絶ちません。被害を食い止めるには、自衛消防隊の役割が求められます。自社の自衛消防組織について、どのような視点から検証してみたらよいでしょうか。

大きな話になりますが、自衛消防隊も社会の動きに合わせた変化が求められています。代表的な変化の1つは、多くの企業で非正規雇用者の割合が増え、現在では全雇用者の3割を越えているということです。

こうした環境を踏まえれば、非正規雇用者を含めた自衛消防隊について考えなくてはなりません。数年前、都内のあるスーパーで大規模な火災が発生したことがありますが、自衛消防活動を行ったのは店長とアルバイトでした。なぜなら自衛消防訓練はしていたのですが、当日勤務していたのは店長とアルバイトだけで、消火訓練を受けていたのは正規職員である店長だけだったのです。

今後はこのようなケースが増えてくるはずです。非正規の従業員だから消防力が落ちるとは言えませんが、消防力を維持するには教育訓練が必要・です。非正規の方が多くなると自衛消防にどんな影響があるのか各組織が再考し、雇用形態に関係なく、誰でも通報や初期消火にしっかりと対応できる体制が求められています。 

2つ目は、多くの組織が団塊世代の大量退職に伴って生じた「隙間」を埋められずにいる現状にあるということです。コンビナートや工業プラントの訓練を見ていると感じるのですが、これまでコンビナートや工業プラントなどを維持管理し支えてきたのは、高度な技術を持った団塊の世代でした。

しかし、団塊世代の大量退職後に人材が補充されるわけではなく、ノウハウも失われ、より少人数で対応している現場は少なくないでしょう。この現実を踏まえ自衛消防隊を見直し、訓練を行わないといけません。 

 

3つ目は災害弱者対策です。近年、防火対象物の6項に分類される病院や養護老人ホームなどの施設は法令改正によって基準が大きく変わりました。高齢化によりこうした施設の数は増えています。 

病院は診療科目によって防火対策の基準が変わり、きめの細かい対策がとられるようになりました。私は、東京消防庁で大隊長のときに、都内の産科病院の隣の木工所が放火され、産科病院を含む周辺ブロック一帯が延焼する火災の消火活動にあたった経験があります。

16人の新生児と母親がいました。通常、火災対策は区画で仕切り延焼を防ぐのが原則です。しかしストレッチャーが出入りするので病院は階段が広く、仕切られていないという病院火災特有の特性があります。

現在はセンターコア方式で重病患者を火災から守る対策もとられていますが、病院は延焼の危険が高い建物でもあります。結果的に産科病院の火災は、一般の消火を担当する部隊に加えて、臨機に身軽に動ける特別救助隊員にも消火ホースを延長させることで病院への延焼を食い止め、多数の新生児と母親を無事救護することができました。 

これは1つの例ですが、一般的な自衛消防体制に終始することなく、弱者を見据えた体制がこれまで以上に求められるということです。

このようにさまざまな社会変化が起こっているなかで、通報して初期消火をするだけの、これまでの自衛消防隊には限界があります。変化に合わせて自衛消防隊の機能も見直していくべきかと思います。