2016/11/20
誌面情報 vol53
実は、東日本大震災で製油所が止まった理由は津波や火災による直接的な影響だけではない。製油所は、地震加速度200ガルという強い揺れを観測すると製油装置が自動的に停止する仕組みになっている。これは震度5強程度に相当する。
製造が止まっていても、製品タンクや出荷設備に問題がなければ、貯蔵してある製品は出荷することができるが、製造を再開するには、装置に問題がないかを点検しなければならず、一般的に、再稼働するまでには1週間から10日かかると見られている。つまり、その間は製品の生産機能はストップすることになる。東日本大震災では、全国に27ある製油所のうち6つの製油所が停止し、67%まで精製の稼働力が落ちたといわれている。
ただし、燃料の流通に詳しい東洋大学経営学部の小嶌正稔教授によると、東日本大震災後は、西日本や北海道の製油所の稼働率を通常より高めたことで、東日本大震災で被災した製油所の生産量を早い段階からカバーすることができた。
さらに、東北・関東の製油所も、津波や火災で大規模な被害を受けた施設を除けば、川崎市にある東亜石油の京浜製油所から順に回復し、3月18日までには79%、21日までは89%、そして4月13日の時点では91%まで回復している。それでも、ガソリンなどの燃料不足は長期化した。
小嶌氏はガソリン不足が長期化した理由の1つが、製油所の油槽機能、つまり製品や半製品を一時的に貯蔵しておく機能と出荷する機能が停止したことだという。実際、仙台の製油所の稼働が止まった後、その生産量は全国の製油所で十分にカバーできたという。しかし、仙台の製油所には、製品と半製品のタンクが合わせて87基あり、190万㎘の在庫を持っていた。
そしてローリーの積み場が52基あり、酒田市や盛岡市に鉄道で運ぶタンク(貨車)の積み場も17基あった。これらの設備が被災した上に、製油所にあった多くのタンクローリーが津波に飲まれてしまったことで、油槽機能が完全に機能しなくなったと小嶌氏は指摘する。
ちなみに、震災当時、東北全体では、油槽所の数が22あった。油槽所は、製油所で生産された石油製品をガソリンスタンドなどへ配送する中間で一時的に貯蔵しておく貯蔵専用の施設である。その油槽所にある燃料油を全部合わせても151.8万㎘しかなかった。この油槽所も八戸、釜石、気仙沼、塩釜、石巻が被災したが、注目すべき点は、仙台の製油所の方が、油槽所よりも多くの製品を蓄えていたということだ。
小嶌氏は、製油所は2つの役割を果たしていると説く。1つは製品を生産する工場としての役割、もう1つは製品をためておく時の油槽所としての役割で、この2つの視点から製油所の被災の影響を見ることが大切だという。
追い打ちをかけたガソリンスタンドの閉鎖
東日本大震災では、製油所の被災に加えて、多くのガソリンスタンドが閉鎖し、そのことがガソリン不足に拍車をかけた。小嶌氏によると、津波などの被災により営業が継続できなくなった割合は宮城県では30%に達する。
誌面情報 vol53の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方