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今回紹介させていただくのは、世界最大級の保険・再保険ブローカーであるAonが定期的に発表している報告書の2023年上半期版である(注1)。これは2023年上半期に世界で発生した大規模災害を、主に人的被害と経済損失、および保険金支払額を中心にまとめたもので、下記URLから無償でダウンロードできる。
https://assets.aon.com/-/media/files/aon/capabilities/reinsurance/global-catastrophe-recap-1h-2023.pdf
(PDF 25ページ/約 2.8 MB)


今回の報告書では当然ながら2023年2月にトルコとシリアの国境付近で発生した地震がクローズアップされている。図1は2023年上半期に発生した災害を、経済被害が大きい順に並べたものであり、トルコ・シリア地震が死者数、経済被害とも突出しているのが一目瞭然である。

画像を拡大 図1.  2023年上半期に発生した災害の経済被害トップ10 (出典:Aon / Global Catastrophe Recap First Half of 2023)


本連載で度々述べてきたとおり、自然ハザードによる大規模な災害が発生した場合、先進国においては経済被害が大きくなる割には死者数が少なく、開発途上国においては経済被害が小さくても死者数が多くなる傾向があるが、トルコ・シリア地震に関しては経済被害、死者数ともに大きくなっている。これはトルコがOECD加盟国でありながら、都市インフラが脆弱な地域も多いという状況によるものと推測される。

本報告書によると、この910億米ドルという数字はトルコ政府、世界銀行、国連、およびEUが共同で見積もったもので、災害による経済被害としては史上11番目とのことである。また、この影響で2023年上半期の災害による経済被害の合計は1940億米ドルに達しているという。

なお、図1に「Severe Convective Storm」というのが4件あるが、これは雷雨や豪雨、霰(あられ)や雹(ひょう)、竜巻などといった、対流(convection)によって発生する気象現象の総称である。図1とは別に2023年上半期における保険金支払額のトップ10もまとめられているが、こちらでは1位のトルコ・シリア地震に続いて、2位から10位までを米国におけるSevere Convective Stormが占めており、米国における損害保険の普及状況をあらためて認識させられるデータとなっている。

報告書の中盤には4ページにわたって「What Surprised Us in 1H 2023」(2023年上半期に驚かされたこと)というセクションがあり、トルコにおける損害保険および建築物の事情、ニュージーランドにおける気象現象による経済損失、米国におけるSevere Convective Stormの増加、カナダでの山火事による健康被害の4つがクローズアップされている。図2はその1つめの話題に関するもので、トルコにおける強制地震保険の普及率を県ごとに色分けしたものである。トルコ・シリア地震で最も被害が多かったのは図の右下の方で黒線で囲まれた地域であるが、「強制」とはいえ概ね半分程度しか普及していないことが分かる。

画像を拡大 図2.  トルコにおける強制地震保険の普及率 (出典:Aon / Global Catastrophe Recap First Half of 2023)


なお、図2の左上の方に普及率が高い地域が集中しているが、これは1999年のトルコ北西部地震(イズミット地震)の被災地と重なる。これはやはり災害を経験した人々の防災意識が高まった一方で、それ以外の地域ではあまり問題意識を持たれていないということであろう。

本報告書によると、トルコ・シリア地震で支払われた保険金は、民間の損害保険で約40億米ドル、公的保険スキームによるもので約16億米ドルだったと見積もられているという。もし強制保険の普及がもっと進んでいれば、公的保険でより多くの損害がカバーされたはずである。

またトルコでは1999年の地震以降に建築物に関する基準が厳格化されたものの、今般の地震では比較的新しい建物も多数倒壊しているとのことであり、法律や基準を確実に施行することの重要さがあらためて指摘されている。