ジャニーズ事務所のタレントを起用したCMの相次ぐ停止など混乱が続いている(イメージ:写真AC)

以前もこの連載でジャニー喜多川性加害問題と、ジャニーズ事務所の対応について書きました。その後、同事務所の9月7日の記者会見、続く10月2日の記者会見で大きな動きがありましたので、あらためてこの問題を振り返ってみたいと思います。

2023年春からの動き

まずは経緯のおさらいをしましょう。

ジャニー喜多川の性加害疑惑については、1990年代の北公次による告発など、再々行われていました。疑惑を報じた週刊文春をジャニーズ事務所が名誉毀損で訴え、2004年に最高裁が性加害の事実認定をしたこともあったのですが、テレビや新聞などのマスメディアではなかなか報じられず、表立って取り沙汰されることがほとんどないまま年月が過ぎていきました。

2023年3月
・BBCがこの問題を取り上げたドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」公開


2023年4月
・元ジャニーズJr.の岡本カウアン氏が日本外国特派員協会で記者会見
ジャニーズ事務所は反応しませんでしたが、週刊誌報道では、広告主から対応を迫られているようだという話も出ました。


2023年5月
・ジュリー藤島社長が謝罪動画を公開し、「再発防止特別チーム」(第三者委員会的な組織)を設置することを発表
・2010年からジャニーズタレントをCMに起用していた池田模範堂が、出演者の退所に伴い中川大志に切り替え

池田模範堂の動きを、広告主のジャニーズ離れの兆候だとする報道もありました。


2023年6月
・ジャニーズ性加害問題当事者の会設立
最初に記者会見を行った岡本氏がネットで激しいバッシングを受けたのを契機に、元ジャニーズJr.やデビュー組など同事務所の被害者十数名が集まり、この問題に関するコメントや提言を行っていくようになりました。


2023年7月
・俳優の服部吉次氏が、小学生の頃、ジャニー喜多川から性加害を受けたことを公表


2023年8月
・国連人権委員会「ビジネスと人権」作業部会が記者会見
・「再発防止特別チーム」が被害者の救済・解体的出直し・経営者交替を勧告


2023年9月
・ジャニーズ事務所初の記者会見

性加害を認めたものの、被害者の救済は行う・社名変更はせず、会社自体は現行のまま・社長は東山紀之に代わるが、ジュリー藤島は代表取締役から降りないと発表。ですが、この記者会見は、以下の理由で十分なものではないと指摘されました。

【9月の記者会見の問題点】
・被害者の救済について具体的な話がない。
・社長は交替するといっても、経営責任者である代表取締役は引き続きジュリー藤島。株も100%ジュリー藤島が所有していることに変わりがない。
・BBCの報道から半年経っているのに、被害者への補償をどうするのか具体的な話がない。
・「(未成年数百人以上に性加害を行い隠蔽し続けた)ジャニー喜多川の事務所」という意味の名前を残すという判断。
・事務所が性加害にどう関与していたのか説明がない。
・会見には長年同社の広報トップを務め、メディアをコントロールしていたと言われる白波瀬傑前副社長の姿はなく、メディアへの圧力について説明がなかった。

9月7日の記者会見は、ジャニーズ事務所は性加害は認めたものの、「再発防止特別チーム」の勧告を跳ねつけた上、説明責任も果たしたとはいえないということでした。

そのため、このような対応は今の企業倫理からは許されないこととして、アサヒホールディングスの勝木敦志社長が朝日新聞の取材に対し「人権を損なってまで必要な売り上げは1円たりともありません」とコメント、同社タレントを起用した広告を停止するなど、大騒動になりました。

記者会見後10日ほどで、広告に起用している約226社のうち25%が停止を発表。中にはモスバーガーのように、当初は起用を続けるとしながら取り下げ、慌てて店頭のポスターのジャニーズタレントの顔の上に掲示物を貼り付けて、批判される企業も出ました。

9月7日の記者会見後、人権の棄損を理由に、広告主が強く反発(イメージ:写真AC)

広告主の強い反発に、ジャニーズ事務所は「向こう1年間、タレントとの契約料のうち、事務所の取り分は放棄する」と提案しますが、ジャニーズ事務所外しの流れは止まりませんでした。アフラックほか事務所抜きでタレント個人と契約したいと主張する企業も出ました。実際、10月頭にはP&GがCM出演タレントと個人契約を結んだと発表しています。