ジャニーズ事務所(写真:ロイター/アフロ)

BBCのドキュメンタリー番組『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』をきっかけに、故・ジャニー喜多川の性加害問題が大きな波紋を広げています。先日の座談会(リスクトレンド座談会「企業は炎上社会とどう向き合うか?」)でも出た話題ですが、今回はこの問題を軸にステークホルダーが問題を起こした場合にどう対応すべきかを考えてみたいと思います。

ジャニー喜多川性加害問題の流れ

初めて暴露された問題ではなかった(イメージ:写真AC)

この問題については、1988年の北公次による告発本、1999年の週刊文春による報道で知られるようになりました。このときジャニーズ事務所は週刊文春を名誉毀損で訴えましたが、2003年に高裁が被害者の証言の真実性を認め、名誉毀損にはあたらないと判断。事務所側は上告しましたが最高裁は棄却し、高裁判決で確定となっています。

この裁判については私も知っていましたが、裁判の後も性加害が普通に行われていたと知って、本当にびっくりしました。さらに、1965年に最初の報道があったと知って、またびっくりしました[下表参照]。

この事件は、単純な性加害事件ではありません。

オカモト氏は記者会見の折、NHKのディレクターによる「もし大手(メディア)が報じていたら、ジャニーズ事務所に入所していなかったか?」という質問に対して「たぶんなかったんじゃないかな」と答えています。

長い間、多くの人が知ってはいたけれど、散発的に報道されるだけで、本格的に追及されることがなかった。だから、知らずに入所してしまい、被害を受けてしまうことが、何十年も続いていたわけです。

ジャニーズ利権という問題

ではなぜ、大々的な報道と追及が行われなかったのでしょう。

一つには、国内の男性アイドルグループはジャニーズ事務所の寡占状態が続いており、ジャニーズを批判することは、マスメディアにとって危険だったことが考えられます。

たとえばテレビ朝日の音楽番組『ミュージックステーション』には、ジャニーズグループの競合となる国内男性アイドルグループ(JO1、INI、BE:FIRST、Da-iCE)は一度も出演していません*。音楽番組だけでなく、ドラマ、バラエティ番組、ニュース番組にもジャニーズのタレントは出演しています。仮にタレントを一斉に引き上げられたら、番組づくりが困難になってしまいます。

さらに、出版社にとっても、ジャニーズ事務所の権力は軽視できません。雑誌の表紙に起用すればファンが買ってくれるので売上が伸びますし、カレンダーの出版を手掛ければ、そこでも売上が立ちます。

大々的な追及が行われなかった背景には利権の構造があるのか(イメージ:写真AC)

広告業界にとっても、ジャニーズのタレントを広告に起用すれば、次の仕事につながることを期待してコアなファンがこぞって購入してくれることをあてにできます。実際、23年の4月に、博報堂の雑誌『広告』に掲載されたジャニーズ文化を論じる対談記事の中で、ジャニー喜多川の性加害に関する部分が削除されていたことが話題になりました**

つまり、ジャニー喜多川が未成年の少年に性加害をしていることは、多くの人が知っていた。でもその行為を表立って追及することは、誰の得にもならなかった。だからこそ、一部メディアを除いて、ジャニー喜多川の犯罪はスルーされ、半世紀に渡って、数百名以上の少年に性加害を続けることができたのです。

*松谷創一郎,2023.2.28,「ジャニーズ忖度がなくなる日──JO1、INI、BE:FIRST、Da-iCEが『Mステ』出演する未来」
https://news.yahoo.co.jp/byline/soichiromatsutani/20230228-00339013

**J-Castニュース,2023.4.4,「ジャニー喜多川氏の記述削除、博報堂の雑誌編集長が経緯説明「広告会社の悪しき『文化』」指摘、会社に要望も」
https://www.j-cast.com/2023/04/04459230.html