宝塚大劇場の正面ゲート(写真AC)

問題発生時に外部に委託して調査し、報告書をまとめ、記者会見を行う流れは一般的になってきました。しかしながら、調査報告書のまとめ方に失敗すると事態を悪化させます。2023年9月30日に転落死した宝塚劇団員のケースがそれにあたります。

死亡の原因は長時間労働とパワハラであると遺族は訴えていますが、劇団側は長時間労働のみを認め、パワハラはなかったとする調査結果を公表し、記者会見を行いました。

しかし、調査報告書の内容が遺族の猛反発を招き、遺族代理人による連続の記者会見が開催され、関係者からの内部告発も続発。そして世論からの批判が相次ぎました。ダメージを最小限にする危機管理の機能が全く働いていない事態、いえ、史上最悪の調査報告書と記者会見とさえいえる状況に陥ってしまいました。

なぜこのように事態は悪化したのでしょうか。経営陣はどうすればよかったのでしょうか。

ずさんな調査がダメージを広げた

「否定系の言葉が多すぎる。言葉の選び方が冷たく、血も涙もない表現だらけ。事実認定をする気もないし、故人の無念さや遺族の気持ちにも全く配慮していない見たこともないほど最悪の報告書」。

これが宝塚歌劇団の調査報告書の第一印象でした。

劇団経営者の直近の対応における最大の問題は、調査体制にあります。筆者が最も驚き、まずいと思ったのは概要版2ページ目(現在は取り下げられ未公開)。ヘアアイロンで火傷した(以下、ヘアアイロン事件)治療の記録がない、との記載部分を読んだ時でした。

ヘアアイロン事件とは、2年前の2021年8月14日、故人が上級生からヘアアイロンを押し付けられて負った火傷事件です。

週刊文春(文春)では、内部告発として
「あまりに痛々しかったので、たくさんの生徒が心配して集まり、どうしたんですか、と声をかけていました。彼女は涙を堪えて『自分でやると言ったのに、ヘアアイロンを奪われて押し当てられた』」

「じゅくじゅくと水膨れになるほどのヤケドを負い、長い間、ミミズ腫れのような傷が残ってしまったんです」

「メイクで隠していましたが、近くで見ると傷の部分がムラになっていて痛々しかった。役者にとって命と同じくらい大事な顔に傷をつけられたことでAさんはショックを受け、新人公演の時は精神状態がギリギリだったようです」
などと報じられました。

しかし、劇団側の報告書では「劇団診療所の看護師によると、当時故人の火傷を見たが痕には残らない程度の火傷と思われた」「記録は残していない」「翌日に撮影された写真からは、故人の額に小指の第一関節から先程度の長さの茶色の傷ができていることが確認できる」と記載されています。

​遺族代理人も「本人が痛がってLINEで家族とやりとりしている資料を提出したのに報告書に反映されていない!」と声をあげました。

「小指の第一関節から先程度の長さの茶色の傷」というのはかなり大きな痕であるにもかかわらず、ここには皮膚科医師など専門家の意見がありません。

日本弁護士連合会が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」によれば、第三者委員会とは「(前略)企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止 策等を提言するタイプの委員会である。」と示されています。

文春の報道と証言から、「目撃者はいたこと」「酷い火傷だったこと」「本人が痛がっていたこと」「精神的ダメージも大きかった」ことがわかります。しかし、調査結果では火傷治療や心療内科の専門家の意見が、明らかに不足していました。

ここから劇団員が安心して本当のことを言えない調査だったと推測ができます。

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