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本連載の締めくくりとして、今号と次号では、事業中断対策の今後を考えたい。

事業中断リスクは地震に限らない

日本でのBCPに関する議論は、主に地震に集中しているが、日本企業の事業中断の原因は地震のような自然災害に限らない。2001年以降の主な事業中断の事例を示す(表1)。

写真を拡大 表1:2001年以降の日本企業の事業中断事例

整理の結果として、地震による直接的な被害以外にも、事業中断の原因は様々に存在することがみてとれる。一例を挙げれば、2010年のアイスランド火山噴火、2009年の新型インフルエンザ、2015年の天津爆発事故などの事例は、何らかの事象に対する政府の対策なども企業の事業中断の引き金となりうることを示している。また、数年に1回程度は新規の感染症が現れ、企業の事業を脅かしているこ
ともわかる。

今後も事業中断は続発する

消費者の嗜好が多様化し、製品の陳腐化スピードが飛躍的に上がっている現代では、在庫は単にコストを要するだけではなく、事業計画上のリスクにもなりうる。各社は在庫の削減に相当の努力を払っている。ただ、在庫は、不意のトラブルが生じた場合にも供給責任を果たすための余力でもある。この点への慎重な考慮がない場合、在庫削減は事業中断のきっかけになる。

これに加えて、重要な原材料や部品の生産が特定の企業に集中する傾向があることも事業中断が続発する要因となっている。この状況を生んだ原因について、政府は、2011年度ものづくり白書の中で「グローバル競争の激化とともに、製造業のサプライチェーン全体において徹底的な効率化・低コスト化がすすめられてきた結果として、完成品メーカーからみた二次下請以下で、中核部素材の生産が特定の企業に集中する事態が生じた。(中略)また、完成品メーカーのサプライヤーに対する技術要求水準の高まりとともに、メーカー毎に必要以上に独自仕様を追求した結果、小ロット生産とコスト低減の両立を図るためサプライヤーの集中化が進展し、生産拠点の集中や新規投資の減少が進んだ、といった要因も指摘されている」と分析している。

実際に2011年の東日本大震災では、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素水、銅箔、自動車用マイコンといった素材や部品の供給が中断することで、これらを使用している産業でも生産が停止する事態に発展した。この事態は、重要な素材や部品であっても、ごく一部の企業もしくは工場のみで製造されていることが少なくないという実態を明らかにした。

また、東日本大震災は、サプライヤーの同時被災による供給中断が生じうることも明らかにした。ペットボトルのふたや石油製品など、複数のサプライヤーの主力事業所が一カ所に集積していたため、震災の影響を受けて需給バランスが急速に逼迫した事例は少なくない。また、原発事故による計画停電の影響により、一部の食品、金属、医薬品など、長時間の連続操業が欠かせない業種でも生産の中断が生じた。

事業中断対策の効果には限界がある

公表された資料や報道をもとに、各社が事業中断対策として取組んでいる代表的な事例をとりあげ、期待される効果と懸念される事項を示す。

(1)複数購買の徹底

離れた立地の2社以上のサプライヤーから必要な原材料や部品などを日ごろから購買し、供給が一部停止した場合は、他のサプライヤーから不足分を含めて調達を図るという考え方である。確かに、複数のサプライヤーからの調達は、サプライヤー間の競争を通じて価格の最適化も図ることができ、一石二鳥にみえる。

しかし、近年の動向からすると、設計段階からサプライヤーに関与させた専用品を使っているなどの場合、そもそも複数購買ができないことが珍しくない。また、複数購買による対策が有効に機能しなかった以下のような事例も東日本大震災では報告されている。

・複数のサプライヤーが同時に被災し、いずれからも調達できなくなった事例。サプライヤーの中には、複数購買を行っている取引先よりも、単独で受注している取引先に優先して商品を供給した事例もある。
・複数のサプライヤーが同時に被災したために、複数購買による対策が有効に機能しなかった事例が東日本大震災では確認されている。サプライヤー側でも、複数購買を行っている顧客を常日頃の営業活動の中で把握しているため、サプライヤーが供給責任を果たす中で、単独で受注している取引先を優先して商品を供給した事例が報じられている。

日ごろから複数購買を行っている場合でも、このような困難がある。まして、供給中断が生じた後、新規先から購買しようとする場合は、多くのサプライヤーが既存の顧客を優先するため、必要な物品を必要量確保できるとは限らない。