2014/11/25
誌面情報 vol46
災害救助活動を「見える化」
地方公共団体金融機構 合田克彰
1. 共通ルールを定めた消防庁からの画期的な通知
2014年4月22日に、消防庁から「大規模災害時の検索救助活動における統一的な活動標示(マーキング)方式の導入について」という画期的な通知が出されました。この通知は、東日本大震災の経験を踏まえ、今後、国内で発生した大規模災害時において、消防機関が自衛隊、警察、海上保安庁などの関係機関と連携して活動する現場で使用する統一的なマーキングを定めたものです。マーキングとは、検索や救助活動を行ったことを示す印のことです。
画期的と書きましたが、何が画期的か分かりますか?
実は、この通知が出るまでは、消防、自衛隊、警察、海上保安庁などの機関の間にマーキングに関する共通のルールはありませんでした。
2. 東日本大震災における関係機関の連携
2011年3月11日、東日本大震災では全国の消防、警察、海上保安庁、自衛隊などが総力をあげて救助活動を行いました。また、救助活動には日本国内だけでなく、海外からも29の国、地域、機関から救助隊・専門家チームらが派遣されました(地図)。
3. “黄金の72時間”とマーキング
地震などの災害によって倒壊した建物等の下敷きになった人の救出は、72時間を境に生存率が激減するというデータがあります(通称Golden 72 hours“黄金の72時間”)。
大規模災害時の捜索救助活動は、広範囲に複数の被災カ所があるので、いかに早く要救助者の位置を捜すか、特定できるかが重要となります。“黄金の72時間”を考えると同じ場所を何度も捜す時間はないのです。
マーキングをすることにより、現場で収集した情報や活動結果について、後着した救助隊をはじめとする関係機関と共有することができるだけでなく、検索救助活動の効率化にも繋がるのです。
4. 海外における統一的なマーキング方式
国際捜索救助諮問グループ(INSARAG)※1が策定する「INSARAGガイドライン」※2の中に、国際緊急援助活動において使用するマーキング・システムが示されており、日本の国際緊急援助隊「救助チーム」においても当該手法を導入しています。
今回の通知は、このINSARAGのマーキング・システムを基本として作成されているので、海外からの救助隊と連携して活動する現場においても使用することができます。
※1 国際捜索救助諮問グループ(INSARAG):国際都市型捜索救助活動の標準的な手法の確立、災害対応時における国際的連携の推進のための調整手法の整備等を目的とした、国連傘下の実務グループ※2 INSARAGガイドライン:国際緊急援助活動を展開する関係国際機関、各国の救助チーム、被災国等が連携するための標準的な手法等に関する指針
5. 「検索完了」だけでは伝わらない
東日本大震災では、このマーキング方法が統一されておらず、問題が生じました。 例えば、消防機関が検索に入った現場に、「検索完了・自隊」と張り紙がありましたが、「検索完了」という表示では、要救助者はいるが死亡確認ができたために他の場所へ移動したのか、要救助者がおらず完全に活動が終了したのか分からず、結局、再度検索をすることになりました。これらの経験が今回の消防庁の通知発出のきっかけとなったのです。
6. マーキングが分からなければ捜索できない
今回の通知により、消防庁はじめ関係各機関において、マーキングの統一が図られました。しかしながら、「関係する部署だけが勉強すればいい」「こんなもの使うことはないだろう」「通知は読んだけど…」という声も聞こえてきます。確かに消防でいえば、被災地に派遣されるのは、緊急消防援助隊に登録されている消防本部ですので、その他の本部は関係ないと言えるかもしれません。
しかし、その本部が被災地となった時はどうでしょうか?応援部隊が来るまでの間は自分たちで救助活動を行い、現場で収集した情報や活動結果について、後着する応援部隊に伝えなくてはならないのです。例えば、東日本大震災では、44都道府県から延べ約3万人の緊急消防援助隊が被災3県に派遣されましたが、派遣隊員が一番多く被災地に集結したのは、発災から1週間後の3月18日でした(グラフ)。
「後着する応援部隊には、災害対策本部から現状を伝えるので、マーキングなんて必要ないんだ」そう言われる方もい。るかもしれませんが、東日本大震災時、当初は被災地の状況を把握することも困難を極めましたし、現場の活動について、対策本部で把握しても続々と到着する応援部隊全てに現場の情報を伝える事は困難であったと考えられます。 “備えていたことしか、役には立たなかった。備えていただけでは十分ではなかった。”
これは、東日本大震災で活動した国土交通省東北地方整備局が作成した「災害初動期指揮心得」の冒頭に書かれている言葉です。
“黄金の72時間”。大規模災害時の対応については(マーキングに限らず)災害が起こってからでは確認する暇もありませんし、ましてや本を開いて勉強をする暇などありません。このマーキングの意味が分からないと捜索活動ができないのです。
東日本大震災で、被災地に派遣された緊急消防援助隊員は、誰もがその光景に圧倒されました。「一体、どこから検索救助活動を始めればいいのだろう」。津波が通り過ぎた後には、ただ荒涼とした瓦れきの山が広がっていたのですから。そして、その瓦れきの中にはたくさんの要救助者が救助を待っていたのですから。
誌面情報 vol46の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方