1年間で販売額17倍に拡大

高知県は、県内の防災力を上げる一方で、これまでの災害に対する知見に基づいた防災関連産業の振興に官民一体となって取り組んでいる。その結果、2012年に6000万円程度だった防災関連製品の販売額は翌2013年には10億円を突破した。県が主体となって広くPRすることで、「地産地消」から「地産外商」を目指す。防災関連産業の振興に関する取り組みを、高知県工業振興課に取材した。

高知県が発行する「第2期高知県産業振興計画」によると、県外への製造品出荷額は1995年の7055億円をピークに年々減少傾向にあり、2014年は4945億円。都道府県別に見ても6年連続で最下位という不本意な結果にある。人口も減り続け、高齢化率も進んでいる。このような状況に対し、県は産業振興の一環として、「日本で1番高い津波が想定されている県」であることを逆手に取り、防災関連産業の振興に本格的に取り組んでいる。 

高知県商工労働部工業振興課長の松岡孝和氏は「高知県は津波だけでなく、もともと日本有数の台風銀座でもあり、それらを克服してきた歴史と知見がある。防災をマイナスととらえず、防災関連産業を振興していけば結果的に高知県の防災力も上がり、経済力も活性化するはず」と話す。 

高知県は、古くは1934年の室戸台風をはじめ、1946年の昭和南海地震では高知市が当時の震度階級で震度5を観測し、高知市内は堤防の決壊による長期浸水などで甚大なダメージを受けた。その後も1971年の大型台風で被災するなど、災害復興のために通常の社会基盤の整備が他県よりも遅れたという歴史がある。 

一方、これらを県全体で克服してきたことで、さまざまな知見が集積し、現在発生している大型台風や集中豪雨にも最小限の被害で食い止めることができていることも事実だ。大きなニュースにはなっていないが、今年8月の豪雨では、2日間で1300mmという記録的な豪雨を経験しているにも関わらず、大きな被害は報告されていない。過去の経験から、住民が「危険な場所には住まない」という意識が高いせいもあるだろうが、官民一体でハード・ソフトとも対策を強化した成果だと言える。

官民連携のプラットフォームを構築 


防災関連産業振興の取り組みは、2011年から始まり今年で3年目に入った。高知県は官民連携のプラットフォームとして、4つのステップを設定した(下図)。1つ目は、高知県防災関連産業交流会の開催だ。防災関連企業と市町村との交流会を設定し、情報交換することで企業は市町村の意見を取り入れるとともに、商品をPR。時には防災関連製品を扱う大手のバイヤーなども講師として招き、商品開発や商談につなげることもある。現在は県内市町村34、防災関連企業団体122社(2014年10月末時点)が参加し、活況を呈しているという。 



2012年から「防災関連製品の認定」制度も開始した。信頼できる商品でなければ、市町村やバイヤーに商品を推薦することができない。商品や技術の機能面や安全面、法令面などに対し、公設試験場など有識者を含む第3者からの厳しい審査を行うことで、「高知県防災関連登録製品」として認定する。認定された製品は、県が発行する「高知防災モノづくりセレクトブック」に記載されるなど、県の後押し効果が期待できる。2012年には42製品を認定し、現在は66製品にまで拡大した。 

もう1つ、認定を受けると開発企業に有利な点がある。2004年の地方自治体施行法の改正により、自治体は一定の条件をクリアすれば、地域の活性化のために地元企業の製品を優先的に購入する公的調達が可能になった。従来は、地元企業と自治体のゆ着を防ぐために禁止されていたが、地域経済活性化のために緩和されたものだ。高知県も2004年から「高知県モデル発注制度」として県独自の新規性のある製品やサービスに対して活用していたが、2012年から「高知県新事業分野開拓者認定制度」をスタートさせ、防災関連製品の購入にも対応できるようにした。県から認定された防災関連製品は、一定要件を満たせば県で決められている随意契約金額の上限を取り外して県と契約することができる。認定期間内においては購入回数の制限もなくした。また、市町村も県との相互認定制度を導入することで、こちらも随意契約の上限を外すことができる。市町村に県内の製品を購入する意識付けをしてもらうことがねらいだという。これまでに県は29製品を認定し、積極的に購入を進めている。 

また、ものづくりの支援も行っている。開発途中の製品で、県の工業技術センターによる分析試験や技術指導が必要な場合は支援を行う。全国レベルの製品にするために、専門家のアドバイザーが必要であればコーディネートし、派遣することもある。試作過程において人件費も含め、補助金も用意しているという。

「地産地消」から「地産外商」へ 
製品が完成したら、次は「地産地消」を促進する。認定商品のカタログを県内の市町村や企業に配布するほか、例えば防災訓練を県下一斉で実施する場合には、参加者に実際に手に持ってもらい、市町村や住民にPRする場を設けているという。また、県内のBCP策定企業や病院、社会福祉関連施設にも訪問し、製品紹介を実施している。県内の企業や施設でも、まだまだ認知されていない部分もあるという。 

「地産地消」の取り組みの次は、現在最も力を入れて取り組んでいる「地産外商」だ。高知県は国内の防災商品の展示会に「高知県ブース」として出展し、県内製品をアピールしている。昨年は国内で5つの展示会に出展したが、今年は9つに拡大。のべ48コマ52社が高知県ブースで出展し、今後も年々拡大していく考えだという。 

また、外商拡大のため、公益法人高知県産業振興センターでは「ものづくり地産地消センター」と「外商支援部」を統合し、「ものづくり地産地消・外商センター」として、アイデア段階から事業プランの作成、商品・試作品開発、販路・事業拡大まで、専任の担当者が一貫してサポートする体制を整えた。出先機関として東京・大阪・名古屋にも事務所を開設し、外商コーディネーターが県外への販路拡大をサポートするという。 

以上の取り組みの結果、2012年に6000万円程度だった防災関連製品は翌2013年には10億円を突破。現在、県は国内だけでなく、海外展開に向けた勉強会なども開始している。