人と人のネットワークが「私的防災拠点」の原点
第4回:事例的考察 東日本大震災
河村 廣
1967年3月神戸大学大学院工学研究科修士課程建築学専攻修了。同年、川崎重工業入社。その後、山下設計を経て70年4月神戸大学工学部助手となり、助教授、教授を経て2005年3月に定年退職、同年4月より同大学名誉教授。88年9月から10カ月、テキサスA&M大学客員研究員、04年度は東北大学客員教授、05~06年度は東北大学非常勤講師。工学博士、一級建築士。
2021/01/06
免疫防災論
河村 廣
1967年3月神戸大学大学院工学研究科修士課程建築学専攻修了。同年、川崎重工業入社。その後、山下設計を経て70年4月神戸大学工学部助手となり、助教授、教授を経て2005年3月に定年退職、同年4月より同大学名誉教授。88年9月から10カ月、テキサスA&M大学客員研究員、04年度は東北大学客員教授、05~06年度は東北大学非常勤講師。工学博士、一級建築士。
2011 年東北地方太平洋沖地震(モーメント・マグニチュードMw9.0)は想定外の大規模海溝型地震で、青森県から福島県に至る広域の太平洋沿岸に想定外の大津波を発生させ多数の死者並びに家屋流失をもたらした。
さらに悲劇的だったのは、福島第1原発で想定外の全電源喪失によるメルトダウン、爆発が生じ、広範囲の放射能汚染を招いたことだ。津波または放射能汚染によって失われた地域から避難し、帰郷の目途の立たない人たち、または帰郷を断念せざるを得ない人たちはかなりの数にのぼる。
地盤災害や放射能汚染は関東地方にまで及び、超高層建築の振動被害は大阪にまで影響した。空前絶後の大震災にもかかわらず、被災者の忍耐強く沈着冷静な行動には、世界各地から驚きと賞賛の声が寄せられた。
ここでは阪神・淡路大震災と同様に、免疫システムとして効果を発揮したと予想されるボランティア活動とSNS(ソーシャルネットワークサービス)、そして阪神・淡路大震災とは若干趣を異にする人と人とのネットワークについて考察を加え、想定外ゆえに機能を発揮できなかった公的防災拠点についても検討を加えよう。
被災地内外の各地区に災害防災センターが設置され受付が始められたが、被災地が広範囲に分散し、交通の便が悪く宿泊や安全面への配慮から、当初はボランティアの立ち入りは足止めされ、活動が開始されたのは交通と受入体制が整備されてからである。
津波による流動的な惨状が広範かつ壊滅的であったため、当初大規模な瓦礫撤去や捜索などに威力を発揮したのは、自衛隊、警察隊、消防隊、建設事業体、さらには米軍原子力空母ロナルド・レーガンなどの機械的かつ組織的な機動力であった。これらは[図4]の公的防災拠点というよりも、外傷がひどく免疫システムを超えた生命体の外側からの外科的処置としてなされたとみるべきであろうか。
避難所が長期かつ広範囲に散在していたため、著名なエンターテイナーや芸術家がボランティアとして続々と支援や慰問演奏に訪れ、避難生活者を心の面からも元気付けたのは印象的であった。数々のチャリティーコンサートも催され、外国から激励のメッセージが多数届けられたのも震災規模の大きさを物語っている。これらは、私的防災拠点としての純粋なボランティア活動の進化形とみることもできよう。
初期の片づけなどの作業を終えると、被災地内の災害ボランティアセンターは災害支援センターとして集約化され、広域連携の支援活動の一翼を担うようになった。自治体、NPO/NGO、消防、警察、放送局、銀行、日赤、医師会、コンビニ、水道、ガス、電気、企業、労働組合、等々へと連携の輪は広がって行った。
特筆すべきは全国的な自治体連携が進み、被災地の自治体への人的・物的支援から行政支援が、ペアーを組んだ被災地内外の自治体の間で行われたことである。
抗体産生細胞=私的防災拠点として必須の条件(※)のうち、2の自律的なマルチエージェントが個人から組織体に進化した条件1の免疫システムとなり、前回に解説したボランティアの進化過程(個人→団体→組織、血縁→地縁→海外、私的→公的→制度)に沿った条件3をも充足するものであった。
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