(イメージ:写真AC)

1. ワクチン接種証明

ワクチン接種に関して主要先進国と比べて出遅れていた日本も、ワクチンを2回打ち終えた人の割合が5割を超えました。緊急事態宣言も全面解除となり、政府は今後の行動規制緩和や社会経済活動の回復に向けて、マイナンバーカードを利用してスマートフォンでワクチン接種を証明するアプリを年内にも開発するとしています。

今後ワクチン接種証明のオンライン化が進むことで、飲食店や商業施設などにおいてワクチン接種証明の提示を求めるなど、施設管理権に基づく入場制限を行うところが増えることが想定されます。ただワクチン接種証明の利用については、経済の正常化に有効なものとして期待される一方で、ワクチン未接種者への差別や不利益扱いにつながることが懸念されています。

2. ワクチン未接種者への差別・不利益扱い

新型コロナウイルスのワクチン接種については、「予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律」(令和2年12月9日施行)で、「接種を受けるよう努めなければならない」と定められており、接種を義務付けてはいません。厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A」においても、接種は強制ではなく、接種を受ける人の同意がある場合に限り行われるとしています。しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックが長引く中で、感染への恐怖や不安を背景に、ワクチン未接種者に対する差別や不利益扱いが問題となっています。

・ワクチン接種の強制は憲法にかかわる問題

日本弁護士連合会が令和3年5月に実施した「新型コロナウイルス・ワクチン予防接種に係る人権・差別問題ホットライン」では学校関係者や勤務先関係者から、「ワクチン接種を実習受講条件とされた」「職場で接種の有無をチェックする表が掲示されている」などの相談が多数寄せられました。学校や職場などにおいて、処遇上の差異を新型コロナワクチン接種の有無に係らしめることについては、憲法第14条が禁ずる差別となり、また、それは事実上の接種強制につながりかねず、憲法第13条により保障される生命・身体の安全に対する権利ないし自己決定権の侵害となり得ると指摘されています。

3. 企業の安全配慮義務

コロナ禍において、企業には、労働者がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、職場の感染防止対策を実施する必要があります。新型コロナウイルス感染症対策本部による「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」では、事業者に対して、在宅勤務や時差出勤などの人との接触を低減する試みや、「3つの密」「感染リスクが高まる5つの場面」などを避ける行動の徹底を図り、労働者が安全かつ安心して働ける職場づくりに率先して行うことを求めています。

また、厚生労働省も「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」や「取組の5つのポイント」を公表しており、企業にはこれらに基づいた取り組みが求められます。

・感染防止策を怠れば企業は訴えられる

なお、職場での新型コロナウイルス感染を巡っては、先般「夫とその母親が亡くなったのは、夫の勤務先が感染防止対策を怠ったため」として、遺族が勤務先に対して約8700万円の損害賠償を求める訴訟が提起されました。今後も同様の訴訟が提起される可能性があり、企業としては、感染リスクや死亡・重症化リスクを低減することを目的としてワクチン接種を推奨するとともに、職場のクラスターを発生させないよう感染防止対策を適切に行うことが必要となっています。