SNSの利用率は年々高まっており、特にデジタルネイティブと呼ばれる若者世代にとって、SNSは、もはや生活の一部になっているといっても過言ではありません。一方で、コロナ禍においてSNSの利用時間が長くなり、それに伴い、炎上や誹謗中傷などによるネットトラブルの発生頻度も高まっています。社会全体が不安に包まれる中で、「自粛警察」や「不謹慎狩り」など、悪者を見つけて批判することで、不安やストレスを解消しようと、行き過ぎた批判や誹謗中傷が増加する傾向が見受けられます。

そこで本稿では、ネット上の誹謗中傷の問題を取り上げます。

1 社会問題化するネット上の誹謗中傷

ネット上の誹謗中傷も、エスカレートすれば法律に触れることがあります。たとえば、「殺す」「懲らしめる」などの投稿は、相手に危害を加える予告となり、威力妨害罪や脅迫罪、強要罪に当たる可能性があります。また、人の社会的評価を低下させる具体的な事実を示して公然と人の名誉を毀損した場合は名誉棄損罪が、具体的な事実を示すことなく公然と人の名誉を棄損した場合は侮辱罪が成立する場合があります。

SNS上で他人を誹謗中傷の投稿をする人は、世間で起きている事象にいらだちを覚え、自分の中の正義感から過激な投稿をしていることが少なくありません。なかには、有名人なら批判されることも当たり前だと言う人もいます。しかし、たとえ正義感からの投稿であっても、相手が誰であっても、相手の人格を否定する言葉や言い回しは、批判ではなく、誹謗中傷です。度を越した誹謗中傷は犯罪であり、逮捕される可能性があること、相手の権利を侵害した場合は、損害賠償請求を受ける可能性があることを理解しておかなければなりません。そして、他人の過激な投稿を再投稿して拡散させる行為についても、違法な行為として法的責任を問われる場合があることを理解しておく必要があります。

ネット上の誹謗中傷を巡る最近の判例として、性被害を訴えたジャーナリストの伊藤詩織氏が事実と異なるイラストをTwitterに投稿されて名誉を棄損されたとして、投稿した漫画界のはすみとしこ氏と、投稿をリツイートした男性に対して損害賠償を求めた訴訟があります。この訴訟の高裁判決(東京高裁令和4年11月10日判決)では、「枕営業大失敗!!」などと書き添えたイラストを含む投稿は、伊藤氏が虚偽の性被害を訴えていると示す内容であり、多大な精神的苦痛を与えるものであると指摘したうえで、多くの人に拡散された点などを考慮し、投稿者に対して、一審判決より増額した110万円の賠償金の支払いを命じました。また、リツイートした男性の行為についても、男性自身の表現行為と解するのが相当であり、伊藤氏の社会的評価を低下させたとして、11万円の支払いを命じた一審判決を維持し、さらに、この男性は、一審判決後にも再びイラストをリツイートしていたことから、一審で認められた賠償額と同額の賠償額を追加した22万円の支払いが命じられました。

2 刑法改正による「侮辱罪」の厳罰化

ネット上で他人を誹謗中傷する行為が社会問題化するなかで、令和4年7月7日、侮辱罪の法定刑の上限を引き上げる改正刑法が施行されました。

改正前の侮辱罪の法定刑は、拘留(30日以内の身柄拘束)または科料(1万円未満の金銭を国庫に支払う)で、刑罰としては軽いものでした。プロレスラーの木村花さんが人気番組での発言を巡りネット上で誹謗中傷を受けて自ら命を絶った事件では、誹謗中傷の投稿をした2人に対する刑事処分が科料9000円の略式命令であったことから、この事件が契機となり、ネット上の誹謗中傷対策として侮辱罪の厳罰化を求め議論が活発化し、今回の法改正へとつながりました。

改正により、侮辱罪の法定刑は「1年以下の懲役もしくは禁固、30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料」となりました。公訴時効期間も1年から3年に変更されました。捜査機関が投稿者を特定したり証拠集めを行いやすくなったことで、今後、誹謗中傷の投稿者が起訴されるケースが増える可能性があります。また、捜査により投稿者が特定されることで、投稿者に対する損害賠償請求訴訟も増えるものと思われます。