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4 大阪市消防局と海外救助隊の連携
(1)関係各機関との連携と意思疎通の場の設定 
大阪市消防局は、緊急消防援助隊大阪府隊の指揮支援隊として、3月12日に釜石市に到着し、活動していましたが、13日に岩手県緊急災害対策本部から海外救助隊の活動支援の要請を受け、指揮支援隊員4名が大船渡市に転進し、その後、中国隊、米国隊、英国隊、台湾隊(非政府組織)の活動を支援しました。 

大船渡市では、1日の活動終了後、「大船渡市災害対策本部調整会議」(大船渡市役所内)にて、自衛隊、警察、大船渡消防本部、消防団、大阪市消防局、市役所各課が入り、結果報告と翌日の活動範囲と活動方針について協議。その後、「大船渡消防本部調整会議」(大船渡消防本部内)にて消防、消防団、警察で協議を行い、その結果を受けさらに「消防隊活動調整会議」にて、海外救助隊、大船渡消防本部、大阪市消防局が円滑に活動ができるよう情報交換、活動範囲の設定や活動方針の徹底などを図りました。また、活動拠点では、現地での各機関の活動が円滑に進むよう「各国合同指揮本部」を設置しました。

(2)活動方針と活動中の徹底事項の確認 
海外救助隊が参加した「消防隊活動調整会議」では、その日の活動報告と次の日の活動範囲などの確認のほか、次の通り活動方針と徹底事項を確認しました。
①活動方針
・生存者救出を最優先とし、最初に建物が残存している個所を重点検索する。
・重点検索と並行して手作業で確認できるところも検索する。
・重点検索後には重機を活用して建物下の空間を検索する。
・活動拠点に「各国合同指揮本部」を設置し、活動状況要救・助者(遺体も含めて)の発見状況などは指揮支援隊が一括管理する。
・各国救助隊には現地の案内と状況説明ができるよう、また指揮本部との連絡調整員として、大船渡消防署員又は指揮支援隊員1名が随行。

②活動中の徹底事項
・重複検索を避けるために、検索済みのマーキングを徹底する。
・余震による津波警報などの発令時には、無線などにより大船渡市災害対策本部から活動停止命令を行うものとし、必ず、活動場所ごとに事前周知している緊急避難場所へ全員避難する。
・要救助者発見時は、必ず安全な場所に救出し観察を実施する。
・遺体と判断した場合は、連絡調整員と連携し付近の毛布などで丁寧にパッキングする。

(3)情報把握方法 
関係機関の活動情報などを把握するための調整体制として、大船渡消防本部に1名が常駐し、衛星電話を使い情報交換、連絡に当たりました。そのほかにも、活動中には「各国合同指揮本部」に1名が常駐し、災害対策本部とは衛星電話で、各国の救助隊に随行している連絡調整員とは無線で情報交換を行い、各部隊の活動を管理しました。さらに2名は海外救助隊の連絡調整員として活動支援及び付近住民からの情報収集を実施し、重点検索個所の選定などを行いました。 

(4)活動エリアの分割 
大船渡市はリアス式海岸特有の複雑な地形で、沿岸部は北から南まで大小多く点在し大きな被害を受けているため、検索エリアを8つに分割し(エリア1:盛町、赤崎町、エリア2:大船渡町(北側)、エリア3:大船渡町(南側)、エリア4:末崎町、エリア5:赤崎町、エリア6~8:三陸町)、陸上自衛隊、緊急消防援助隊(山形県隊)、消防団、警察、海外救助隊の各機関に担当を割り振り活動を行いました。

(5)海外救助隊との活動の評価と課題
①海外救助隊との活動の評価
・事前の「消防隊活動調整会議」において、活動範囲をはじめ、活動拠点・緊急避難場所・通信連絡体制などの活動体制を確立していたため、海外救助隊及び緊急消防援助隊の重複検索などもなく、非常にスムーズに活動できた。
・活動現場に各国の「合同指揮本部」を設営したことにより、各隊の活動の進捗状況が把握でき、遺体管理なども確実に実施できた。
・各会議の実施により、災害対策本部内の意思の疎通が図られ、お互いに人手不足などを補完でき、活動方針などの決定が非常にスムーズだった。
②海外救助隊との活動する上での課題
・現場活動時、5人1組などで活動を展開する場合があり、その際は通訳などが足りなく、調整を図りにくくなる。
・国際認定基準では、最高基準の救助技術を有していても、ところどころで危険な行動(重機作業中の待機場所が重機に近いなど)が見られた。

5 米国の危機対応システム(ICS)
(1)米国の危機対応標準化システム概要 
これまで、東日本大震災において日本国消防と海外救助隊がどのように連携して活動したかについて、大阪市消防局の活動に焦点を当てて紹介をしてきました。 

ここからはICSとは何かについて簡単に説明した後、ICSというシステムが消防にとって特別なものではないということを前掲の連携事例をもとに検証していきたいと思います。 

1970年代、カリフォルニア州の森林火災への対応では、次のような問題が発生していました。①多くの人の報告が1人の管理者に集中、②さまざまな機関ごとに異なる非常態勢、③組織ごとに異なる用語の使用、④信頼できる情報の欠落、⑤さまざまな機関間の連携計画または構造の不足、⑥災害対応の行動目標が不明確、具体性の欠如。

これらの問題を解決するため、森林火災に関連する全ての組織が標準的な危機対応体制を共有するためにできたのがICSです。非常事態発生時の体制整備の重要性、複数の機関の連携の重要性から生まれたICSは、①どのような種類、規模の災害にも応用できる、②組織間連携、地域間連携を可能にする、③計画立案、資源管理の仕様を共通化する、④組織構造を共通化する標準的な危機対応システムとして、30年余の歳月をかけ2003年ブッシュ元大統領が国土安全保障省発行(HSPD-5)に署名しNIMS(米国緊急事態管理システム)が制定され、がその中で基本的な危機対応ICSのマネジメントシステムとして位置づけられました。現在では災害現場のみならずコンサートなどのイベントでも使用されるようになり、関係各機関の連携・調整を図るためのデファクトスタンダード※になっています。 

日本でも内閣府の「災害対策標準化検討会議」の中に設置された「インシデント・コマンドシステム標準化検討ワーキンググループ」において、ICSなどを参考にした危機管理の標準化の検討が行われ、2014年3月に報告書が提出されています。
※事実上標準化した基準