ポータブル電源は「BCP三種の神器」になった
災害時に「使えなかった」は許されない!
リスク対策.com 編集長/
博士(環境人間学)
中澤 幸介
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中澤 幸介
新建新聞社取締役専務、兵庫県立大学客員研究員。平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。数多くのBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト「平成25年度事業継続マネジメントを 通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務」アドバイザー、内閣府「平成26年度地区防災計画アドバイ ザリーボード」、内閣府「令和7年度多様な主体との連携による防災教育実践活動支援等業務」防災教育チャレンジプラン実行委員など。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」、LIFE「命を守る教科書」等がある。
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近年、災害対策やBCP(事業継続計画)の一環として、ポータブル電源を導入する企業が急増している。安否確認システム、災害時の通信手段、そしてポータブル電源。この三つは、今や企業防災の「三種の神器」といっても過言ではない。しかし、実際に災害時に使える状態になっている企業は、決して多くない。
実際に使ってみると、必要な電力量が見えてくる
仕事柄、企業の防災訓練やBCP訓練に立ち会う機会が多いが、その際、提案するのが「ポータブル電源を実際に使う」ことだ。昨年、ある企業では、ワークショップ形式の訓練にポータブル電源を使うことを提案した。4人が1台のポータブル電源にノートPCを接続した。PCはほぼ満充電だったにもかかわらず、約2時間後にはポータブル電源の残量は100%から約60%まで低下した。参加者からは、「思った以上に電気を使う」という声が多く聞かれた。現実的な消費電力は、実際に使用して初めて把握できる。災害時に使えないことは、許されない。多少面倒でも、まずは理論的にどのくらい使えるかを計算し、できれば実際に訓練で使ってみる。以下は、少し乱暴な説明にはなるが、ポータブル電源を考える際の目安をまとめてみた。
ポータブル電源の容量とは
ポータブル電源の容量は一般的にWh(ワットアワー)で表される。Whとは、「何ワット(W)の電力を、何時間使用できるか」を示す単位である。例えば100Whのバッテリーなら、100Wの機器を約1時間、50Wの機器を約2時間動かせる計算になる。
現在販売されている製品は、おおむね次のように分類できる。
| 容量 |
用途 |
| 200~500Wh |
スマートフォン・タブレット中心、個人利用 |
| 500~1,500Wh |
ノートPC、通信機器、小規模オフィス |
| 1,500~3,000Wh |
BCP用途、小規模事業所 |
| 3,000Wh以上 |
拠点・施設向け、大人数の利用 |
1・5・10ルールでどのくらい使えるのか計算してみよう
まず考えるべきことは、「停電時に、何を、どのくらいの時間動かすのか」である。その際、参考となる消費電力・電力量は次のとおりだ。
・スマートフォン1回の充電に必要な電力量:約10~15Wh
・ノートPCのバッテリー容量:約50~80Wh
・ノートPC使用中の消費電力:約20~40W
・40インチ前後のテレビの消費電力:約60~100W
細かい数字を覚えにくい場合は、消費電力を「1・5・10ルール」でとらえるとよい。スマホの充電1回を約10Wh(最近の機種は15~20Whが多い)、ノートPCの使用を約50W、テレビの視聴を約100Wと覚えておけば、おおよその計算ができる(スマホは充電1回あたりの電力量(Wh)、PCとテレビは、使用中の消費電力(W)である点に注意)。いずれも機種によって多少は異なるが、ポータブル電源の容量は余裕を見て選ぶべきものなので、目安としてはこれで十分だ。
必要な電力量(Wh)は、「消費電力(W)×使用時間(h)」で求める。例えば、ノートPC3台とテレビ1台を3時間使う場合を考えてみよう。1・5・10ルールで計算すると、ノートPCは50W×3台=150W、テレビは100W×1台=100Wで、合計の消費電力は250Wになる。これを3時間使うと、250W×3時間=750Whの電力量が必要になる。
ただし、インバーターによる変換ロスなどがあるため、実際に取り出せる電力量は定格容量の80~90%程度と考えておいたほうがよい。この条件であれば、750Whを0.8~0.9で割った830~940Wh、つまり1,000Wh前後の容量を持つポータブル電源を選ぶのが現実的な目安となる。
BCPではBIAから必要容量を逆算する
BCPにおいては、BIA(Business Impact Analysis:事業影響度分析)から必要容量を逆算することが重要である。例えば、要員が6人で、目標復旧時間(RTO):24時間とする。
必要設備を「ノートPC3台(50W)」「テレビ1台(100W)」「Wi-Fiルーター1台(15W)」「スマートフォン6台(10W各1回充電)」とすると、下記の計算になる。
| 設備 |
想定消費電力・使用量 |
24時間使用時の消費電力量 |
| ノートPC 3台 |
50W × 3台 |
3,600Wh |
| テレビモニター 1台 |
100W |
2,400Wh |
| Wi-Fiルーター 1台 |
15W |
360Wh |
| スマートフォン 6台 |
10Wh × 6台(各1回充電) |
60Wh |
| 合計 |
約6,420Wh |
さらに変換ロスを考慮すると、約7,000~8,000Wh程度の容量が望ましい。
もちろん、全員が常時PCを使うのか、交代勤務なのか、夜間は停止できるのか、によって必要容量は大きく変わる。つまり、必要容量は「業務」から逆算して決めるという考え方が重要である。
エアコンを動かしたい場合は要注意
企業が見落としやすいのが空調である。夏季災害では熱中症対策が極めて重要で、ポータブル電源でエアコンを回すことを考えている人も多いようだが、エアコンは消費電力が非常に大きい。一般的な家庭用エアコンでも500~1,000W程度を消費する。
例えば900Wで24時間運転すると、900W×24時間=21,600Wh。3日間では64,800Whが必要という計算になる。これは一般的なポータブル電源では現実的ではない。
そのため、小さな一部屋を決めて、そこのみを冷房するスポットクーラーや扇風機、サーキュレーターを併用するなど、現実的な運用設計が重要になる。なお、200V仕様の業務用エアコンを使用する場合は、200V出力に対応した機種でなければ接続できない点に注意が必要だ。なお、容量(Wh)だけでなく定格出力(W)も確認も必要になる。エアコンやモーター機器は起動時に定格の数倍の電力を要することがあり、容量が足りていても出力不足で起動できない場合があるため、購入にあたっては、メーカーなどに問い合わせてみることをお勧めする。
「使えないポータブル電源」になっていないか
容量が十分でも、災害時に動かなければ意味がない。実際の訓練で、新しいはずのポータブル電源を使ってみたら、「満充電のはずが残量50%しかなかった」という事例を見たことがある。原因は、自然放電、長期保管、定期点検不足などが考えられる。少なくとも半年に1回は、充電状態の確認、AC・DC出力確認、実際の機器を接続した負荷試験は実施してほしい。また、点検結果やバッテリー劣化状況を記録し、BCP資機材台帳と合わせて管理することが望ましい。
便利なのがパススルー機能である。これは、充電しながら機器へ給電できる機能を指す。平時から通信機器やネットワーク機器のバックアップ電源として利用すれば、定期的に充放電される、動作確認が日常的にできる、災害時もすぐ使用できるといったメリットがある。
一方、注意が必要なのが火災だ。ポータブル電源は、大容量のリチウムイオン電池を搭載している。近年は安全性の高いリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)が主流となっているが、それでも誤った使用による事故リスクはゼロではない。落下や強い衝撃を避けることはもちろんだが、保管場所も、直射日光の当たらない場所にするなどの配慮が必要だ。また、NITEや消費者庁のリコール情報は定期的に確認したい。
「海外メーカーだから危険ではないか」という不安を聞くこともある。しかし、重視すべきは、安全設計やサポート体制ではないか。確認したいポイントは、第三者認証や日本国内のサポート体制、保証期間、リコール対応実績などだ。
また、BCP用途では複数台を分散配備することも有効だ。1台の大型機に依存するよりも、用途ごとに複数台を配置した方が、故障時や運搬時のリスクを軽減できる。
「持つ」より「使える」が重要
繰り返しにはなるが、ポータブル電源は、持っているだけでは意味がない。非常用発電機から充電できるか、太陽光パネルから充電できるか、想定しているPCや通信機器を何時間動かせるか、誰でも接続・運用できるか…。これらは実際に試さなければ分からない。
BCP担当者には、ぜひ訓練の中でポータブル電源を使用していただきたい。
ポータブル電源を「お守り」ではなく、「戦力」として活用できるかどうか。その差が、災害時の事業継続力を左右するといえる。
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大容量モデルの「ポータブル電源3600 Plus
」をリスク対策.comで実際に使ってみた。
Jackery Japanは、企業のBCP対策向けに「ポータブル電源3600 Plus」を提案している。リスク対策.comでは、実際にサンプル機を執務フロアに置き、使用感を試した。製品スペックとともに感想をお伝えする。
BCP対策として活用
容量は3,584Wh。社員5人のオフィスでも利用機器を限定すれば、PCや通信機器を稼働させつつ一定時間の業務継続を支援する。最大出力は3,000Wで、2台を接続した場合はエアコンなどの200V家電にも対応する。
例えば停電時、必要設備を「ノートPC5台(50W)」「テレビ1台(100W)」「Wi-Fiルーター1台(15W)」「スマートフォン5台(10Wh、各1回充電)」として8時間稼働すると2,970Whとなる。とはいえ最低限の試算であり、消費電力が大きい冷房などは同時に使えない。必要容量は業務内容や状況から逆算して決めたい。
満充電後1年間保管した場合の自然放電率は約5%とし、同社は3カ月に1回程度の点検と充電を推奨している。いざという時に使えるよう、防災訓練の際には必ず点検しておこう。
UPS機能とパススルー機能も備えている。普段からPCや通信機器と接続しておくと、停電時には0.01秒以内にバッテリー給電へ自動で切り替わる。バッテリーにはリン酸鉄リチウムイオン電池を採用し、約6,000回の繰り返し充電に対応する。
デスク下に置いたことで副次的な効果も
本体サイズは幅385×奥行309×高さ491mm、重量は約35kg。伸縮ハンドルとキャスターを備えているため、持ち運びは簡単だ。サンプル機を約1週間使用したが、高さ70cm程度のデスク下に納まり、執務スペースに設置しても大きな圧迫感はなかった。大容量モデルでありながら、省スペースで運用しやすい点はオフィス利用におけるメリットの一つといえる。
また、目に付きやすい場所に設置したことで、社員が防災対策への関心を高める副次的な効果も感じられた。本体の重さや容量、使い方、停電時の運用方法だけでなく、自宅でもポータブル電源を備えているかといった話題が自然と生まれた。企業の備えとして導入するだけでなく、社内イベントや屋外の活動で積極的に活用し、日頃から操作に慣れておくことで、有事の際にも迷わず活用できる体制づくりにつながるだろう。
(リスク対策.com 佐野元基)