アールシーソリューション代表取締役社長の栗山章氏と、営業企画部の鈴木理那さん

BCP(事業継続計画)のために安否確認システムを導入する企業は多いが、緊急地震速報をBCPの中に組み込んでいる企業はまだまだ少ない。しかし地震が発生したときには、従業員1人ひとりが、まず自分の安全を確保することは最重要課題だ。大手ゼネコンの竹中工務店は、会社が貸与するすべてのスマートホンやタブレット端末に「ゆれくるコール ビジネスプラン」を導入。BCPのなかに緊急地震速報を組み込んでいる。

「ゆれくるコール」を開発したアールシーソリューション代表取締役社長の栗山章氏は「事業所に緊急地震速報装置を導入している企業は多いが、従業員の外出先では効果を発揮できない。アプリで装置の代用ができれば、さらに多くの人の命が守れるのでは」と話す。

もともと竹中工務店では、地震発生時に社員の安全を確保する手段として、事業所ごとに設置型の緊急地震速報装置を導入していた。一方で、社員の半数以上を占める建設現場への設置は難しく、建設現場で働く社員や外出中の社員は緊急地震速報を受け取ることができなかった。もちろん個人的に緊急地震速報アプリを入れている従業員もいたが、会社として組織的に訓練などに活用することはできなかった。栗山社長は、「『ゆれくるコール ビジネスプラン』なら、模擬データによる訓練が可能。さらに、『ゆれくるコール』にも安否確認機能がついているが、ビジネスプランでは他社の安否確認システムと連携することもできる」とする。

緊急地震速報を使った全社一斉訓練

地震発生前にプッシュ通知。身の安全を守る行動がとれる

竹中工務店は昨年11月、実際に「ゆれくるコール」を活用した全国一斉の合同震災訓練を開催した。

訓練を企画した同社総務室総務部の佐藤大吾氏は、「従来であれば大地震が「発生した」という想定のもと、災害対策本部長である社長が災害対策本部を設置。社員が安否確認メッセージを受け取るという、大規模地震の「発災後」が訓練の開始時点だった。

今回の訓練では、模擬データにより社員が緊急地震速報を受信し、社員に揺れの到達時間のカウントダウンを通知。地震の発災時から訓練を開始することができ、非常に臨場感のあるものになった」と、訓練の当日を振り返る。

震度が地図上に表示される。左上のマークを押すと安否確認システムが立ち上がる

「ゆれくるコール」では緊急地震速報を受信すると、まず画面に「震度6強の地震が、あと10秒で到達します」など、具体的な地震の大きさと到達までの時間が記される。

発災後は、発生した震度が地図上で表示され、どこでどのくらいの震度の揺れがあったかが分かるため、自分の家などの揺れもすぐに確認することができる。将来的には、画面の左上にあるマークを押すと竹中工務店の安否確認システムが立ち上がり、そこで安否を会社に報告することができる機能も搭載予定。マークはクライアントの希望により変更することもできる。一連の動作がスムーズに行えるのも、『ゆれくるコール』の特徴だ。

佐藤氏は「緊急地震速報が発災前にアプリから通知されれば、社員は地震に対して身構えることができる。

身構えができるかできないかは、社員が自分の命を守るために非常に重要。今後は、アプリから通知を受け取って地震が発生するまでの間に、自分のいる場所に応じて具体的にどのようなアクションを取るべきかを、訓練や教育を通じで学ぶ機会を提供していきたい」と、今後の展開について話している。

進化する「ゆれくるコール」。クラウドでアプリ開発作成支援も

「防災クラウドは、いつでも、どこでも、だれでも、どんなモノでも防災を可能にしたプラットフォーム」(栗山社長)

「ゆれくるコール」は今年3月、「通知内容を音声で知らせてほしい」という視覚障害者の要望に応え、音声案内機能を搭載した新しいバージョンを公表した。通知音設定で「音声」を選択すると、効果音が流れた後に「震度6弱です。揺れがおさまるまで身を守ってください」などの音声が流れるしくみだ。英語にも対応している。現在は機械音声のみでの対応だが、今後はより聞き取りやすくなるよう、声優の井上和彦さん、かないみかさんによる音声を追加予定だ。現在は有料のプレミアムプランのみだが、栗山社長は「近いうちに機械音声に関しては、無料版でも搭載できるようにしたい」とする。

アールシーソリューションでは、「ゆれくるコール」で培った技術を活用し、「防災クラウド」として、主に自治体などのアプリの作成支援も行っている。同社は2014年、観光庁と共同で、訪日外国人旅行客向けに「Safety tips」を開発した。同アプリは緊急地震速報のほか津波警報、噴火速報、特別警報、熱中症情報、国民保護情報を通知する無料アプリで英語・中国語(繁・簡)・韓国語・日本語の5言語に対応している。

しかし、内容が充実しているにもかかわらず、このアプリにも大きな課題があった。「外国人観光客が、安全だと言われている日本に来たはずなのに、いきなり「防災アプリをダウンロードしてくれ」と言われても戸惑ってしまう。観光業界の企業とのミーティングを重ねるうちに、防災情報は観光アプリのなかの1つのコンテンツにしたほうが良いと考えた」(栗山社長)。

栗山社長らはその課題を解決するため、「Safety tips」と同様の災害情報をクラウド上に置き、簡単な仕組みでアプリの中に取り込める仕組みとして「防災クラウド」を開発した。自治体や企業などが観光アプリを開発する際に「防災クラウド」を活用すれば、アプリの1コンテンツとして「Safety tips」のような取組みを広げていくことができる。

栗山社長は「私たちは『ゆれくるコール』の技術で、550万人のユーザーに一斉にプッシュ通信する技術を確立している。この技術はスマホやタブレットだけでなくデジタルサイネージなど、さまざまなIoT製品に情報をプッシュ通知できる。さらに『Safety tips』では5言語に対応した。防災クラウドは、いつでも、どこでも、だれでも、どんなモノでも防災を可能にしたプラットフォーム」と、自信をのぞかせている。

(了)