ESGリスクの本質を考える

 

神戸大学大学院経営学研究科 教授
國部 克彦 氏

気候変動の問題が世界的にも注目されていますが、私たちは本当に気候変動を解決しようとしているのでしょうか? スウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんは、2019年国連地球サミットで「あなた方が私たちを裏切ることを選ぶなら絶対に許さない」と、非常に強い言葉で怒りをあらわしました。これは気候変動を引き起こしている人に向けたものではありません。気候変動対策の最前線に立つ各国の政策担当者に向けた言葉なのです。

2050年にカーボンニュートラルを達成しなければ、地球環境は破壊的な被害を受けるとも言われています。仮にこれが真実なのであれば、カーボンニュートラルを達成できなかった場合のリスクについても備えておかなければならないはずです。しかし実際に世界が取り組んでいるのは危機をあおるだけで、カーボンニュートラルを達成できなかった時の大きなリスクへの対処は全く不十分です。ということは、カーボンニュートラルが達成できなくても危機は怒らないと信じている可能性があります。そうだとすれば彼ら(特にその中心であるEU)の狙いは何でしょうか。それは、化石燃料に依存した社会を転換し、エネルギーの覇権を握ることであるのではないでしょうか。

私たちにとってエネルギーは、生活に欠かせない非常に重要なものです。化石燃料に依存しない社会をつくりエネルギーを効率的に使用することが私たち人類にとっては大きな課題であることは間違いありません。だとすれば、気候変動の恐怖を煽るのではなく、実質的なエネルギー対策を行うことが重要なのではないでしょうか。しかし、このような議論はほとんど行われておりません。漠然と提示されているリスクが真実なのかどうかの検証はほとんど議論されておらず、恐怖をあおる形でハイスピードで直進しています。この状況こそが、大きなリスクなのではないでしょうか。

リスクマネジメントシステムがリスクを作り出す

近代社会を発展させてきたのは、政治家ではなく、企業や企業が使う科学技術です。民主主義では私たち一般市民が政治家を選ぶことができますが、企業の経営者や学会の学長のような科学技術の専門家を私たちが選ぶことはできません。つまり、経済システムや科学技術のシステムには民主主義が及ばないのです。環境問題が経済システムや科学技術のシステムによって引き起こされているとしても、政府が直接統治することは非常に難しい。そこで出てきたのが、リスクマネジメントシステムを作って外部から間接的にコントロールするという考え方です。つまり、共通のリスクマネジメントの仕組みをつくっておいて、その仕組みが動いているかどうかを内部統制で確認することができれば、リスクを管理できるというわけです。

科学技術・経済に起因するリスクと民主主義の関係