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新建新聞社/リスク対策.comとJX通信社の共催オンラインセミナー特別企画『本気で考えるBCP~災害対応における情報活用とBCPを継続的に改善させていくためのポイント』がこのほど開催され、“本気でBCPに取り組む企業”として、セブン-イレブン・ジャパン、TDK、JX通信社の3社の担当者が登壇し、それぞれの視点から、企業経営におけるBCP・危機管理への取り組みについて議論した。

CASE1
  • 事例報告1 セブン-イレブン・ジャパン
  • BCPは企業文化の礎
    活動通して社員の自覚を促進
  • 株式会社セブン-イレブン・ジャパン
  • リスクマネジメント室 総括マネジャー

中澤 剛

前半最初の講演に登壇したセブン-イレブン・ジャパンの中澤剛氏は、同社におけるBCPの「仕組み」、「取組」、「今後の展望」について説明した。陸上自衛隊の指揮官・幕僚、防衛研究所主任研究官などの経歴を持つ中澤氏は、同社のリスクマネジメント室総括マネジャーに就任後、1年目にBCP策定、2年目からその普及徹底に取り組んできた。

中澤氏は、リクスマネジメント室に着任した最初の一年で「大規模災害に対する事業継続基本計画」を作成したほか、台風と首都直下地震への対応を検証する図上演習を行い、その成果等を踏まえて4つの事態別計画を作成した。

2021年には、2回目の首都直下地震図上演習や、南海トラフ地震図上演習も実施したほか、9月1日を全社防災点検日として定め、社員全員が防災体制を点検する取り組みを導入。こうした防災点検や演習の成果を踏まえてBCPの改訂を行った。中澤氏は、「作ったきりにせず、絶えず見直しをする。これが大事」として、2022年度も、演習や防災点検を繰り返し実施している。

加えて今年度は、地区事務所(GDO)でもそれぞれ「現地演習」を計画しているほか、物流・商品製造にあたる部署とともにサプライチェーン強靭化検討会を開催。さらには、日本フランチャイズ協会(JFA)主催の「大規模災害対応共同研究会」の座長として、6省庁、3都県、他コンビニチェーンとともに首都直下地震発生時の被災者への物資供給につき、具体的な課題を抽出し解決策を検討している。こうした関係者との協力をもとに2026年までに社内外との連携を確立し、大規模災害への対応準備を進めていくと説明した。

最後に、中澤氏は、同社の大規模災害対応の基本理念である「人命最優先で行動し、安全を確保する、店舗の早期再開による利便性の向上、地域社会への貢献」の実践により、「災害発生時にも、お客様の立場でものを考えることができる誠実な社員と組織を育成できる」との信念に言及。「BCPは単体で存在するものではない。企業理念を実現し、社員の意思を正しい方向に導くもの。企業文化の礎である」と述べ、図上演習によるシミュレーションや、年1回の防災点検日を通じて、社員の自覚を促進し、徹底していくことの大切さを強調した。

CASE2
  • 事例報告2 TDK
  • 目線を上げて中長期の視点持つ
    経営トップからのメッセージ積極的に
  • TDK 株式会社
  • グローバルリスク管理部
  • BCM プロジェクトリーダー

古本 勉

続いて登壇したTDKの古本勉氏は、同社のBCM定着化と、BCPの実効性を高める取り組みを紹介した。古本氏は冒頭、1935年創業の総合電子部品メーカーとしてグローバル展開する同社が、危機管理に取り組むことについて、「創造によって文化・産業に貢献する」という社是の下で「価値観を共有する意味がある」と説明。「組織文化は、個人と組織を結びつける要」との考えからBCPに取り組んでいると語った。

古本氏は、BCM定着化に向けた取り組み姿勢として、「目線を上げて」というキーワードを紹介。「きっちりとBCPを作り上げる」という意識に加え、「目線を上げて、中長期の視点を持つ」ことが大切であり、「事業継続能力をどうやって上げるのか」といった”先の話”を繰り返して説明するように心がけていると語った。

続いて、古本氏は「実効性を高める」ことの解釈として、「いざというときに動ける、リスク感度の高い人財を育てる」という同社の考え方を紹介。その上で、「アフター・アクション・レビュー」による課題の振り返りから次に生かすまでをワンサイクルとして繰り返すことや、演習を通じて「たくさんの失敗経験を積んで、実際の被災時に少しでも判断ミスや意思決定遅れがないように」することの大切さを挙げた。特に、演習を「企画」、「設計」、「実施」、「評価」に分解し、「どうやってみなさんに失敗していただくかを最初に企画する」ことが、演習をやるコツであると説明した。

さらに、経営トップからのメッセージ発信を積極的に行い、BCP・BCMという言葉を社内に浸透させていくことも心がけていると報告。「形式的なBCMはすぐに形骸化してしまうので、”いざという時に役立つ、動ける人財の育成”に取り組んでいるんだということを、トップから率先して発信していただく」との意図を述べた。

最後に、古本氏は、「”後手ならでは”の視点」という言葉で同社の取り組みを表現。BCP・BCMの取り組みで先行する企業がいる中、「遅れているからだめだということではなく、遅れているから選べる、取りうる手段があり、先行している会社様の”いいとこ取り”ができる。もしくは、失敗事例を見ながら、それやってはいけないんだということに気づく。後手でもそんなに気後れしていない。積極的に、前向きに捉えてやっていく」との姿勢を示した。

CASE3
  • ソリューション JX通信社
  • 約80種類のリスク情報をリアルタイム提供
    BCP見直しにも使える便利機能も
  • 株式会社JX通信社
  • 執行役員 FASTALERT事業部長(現在)
  •  
  • マーケティングセールス局
  • カスタマーサクセス ユニットマネージャー
  • (収録時)

鈴木 大和

JX通信社の鈴木大和氏は、同社が提供するプロダクト「FASTALERT(ファストアラート)」の概要紹介と、BCPへの活用方法などについて説明した。

同サービスについて、鈴木氏は「SNSの投稿にはあいまいな情報も非常に多いが、その情報を緯度・経度レベルで推定し、地図上にプロットするところまで自動で行っている。自社拠点や取引先を登録することで、リスク上の影響度がひと目で分かるようになっている」と説明。同サービスが”報道機関導入実績ナンバーワン”のツールであると述べ、「報道の発表よりも早く情報を取得することができる。また、現地にいる方が実際に投稿をあげるので、その画像から現地の詳細な状況がリアルタイムで分かる」と強みを語った。

鈴木氏は、「FASTALERT」の活用方法として、発災時における複数拠点の管理業務をAIとDXの力で解決する新機能「発災コネクト」を紹介。多くの手間が発生する「情報の察知・収集」、「拠点への連絡」、「拠点からの回答の収集・集計」、「社内への報告」の業務を自動化して支援するもので、事前に登録した拠点の住所と、被害が予想される地域を重ね合わせ、一致した地域の拠点にEメールで自動的に連絡。受信した各拠点の担当者が、メール送付されるアンケートに回答し、アンケート結果が自動集計される仕組みであり、送信メールの文面や、アンケートの内容も柔軟に変更できることから、さまざまなステークホルダーに向けた連絡に活用できると説明した。

鈴木氏は、「FASTALERT」の平時の活用方法として、防災訓練での活用例も紹介。「マップ上で過去に検知した事象を再生する機能や、図上訓練で作るシナリオなどを画像付きでインポートし、音声の読み上げで再生する機能を、図上訓練時の状況付与機能として活用することが可能」。また、現在開発中の、過去に検知したリスク情報を拠点の地域ごとの統計的なデータとしてレポートで提供する新サービス「リスクマップレポート」にも触れ、「BCPの見直しにも活用いただくことを想定している」とした。

後半のパネルディスカッションでは、前半の登壇者3名に『リスク対策.com』の竹内美樹をモデレーターに加え、BCPの実効力を高め継続的に改善していくポイントをテーマに議論を深めた。

DISCUSSION
  • パネルディスカッション「本気で考えるBCP」
  • 演習の徹底で現場の自覚・理解を促進
    BCPはソーシャルグッドの実現にも
  • リスク対策.com
  • BCPリーダーズ編集責任者

竹内 美樹

冒頭、竹内氏は、今夏の豪雨災害や連日の猛暑、新型コロナ感染者数の過去最多更新といった状態や、首都直下地震・南海トラフ地震について依然として深刻な状況が懸念されることなどに触れ、企業の事業継続の課題を改めて指摘。その上で、BCPの実効力を高めていくポイントの1つとして「現場従業員の対応力を高める方策」を各社に尋ねた。

セブン-イレブン・ジャパンの中澤氏は、「一人一人が自分事として物事を考えること」の大切さを挙げた。その例として、同社が今年9月1日から消防に関する規則・組織を整えたことを報告し、「全員が消防隊員、予備隊員である」という自覚のもとに、全社員が消火器と消火栓を一回触ってみるといった具体的な取り組みを行っていると説明。「体験によって自信をつけていただく。そのことによって自覚を持ってもらう」との意図を語った。

TDKの古本氏は、「演習」をキーワードに挙げ、「行動チェックリスト読み合わせ演習」や「災害対策本部設置演習」など、さまざまな演習を組み合わせながら、各事業部門や組織に適した方法が見つかるまで繰り返していく段階にあると説明。また、Eラーニングや、トップによるメッセージ発信、他社の事例の紹介なども行い、とにかく「社員の意識を変える」こと、そして演習の繰り返しが大切であると強調した。

JX通信社の鈴木氏は、「FASTALERT」の機能を活用することで、図上演習などで、リアリティを伴った訓練を支援できると説明。その例として、状況表を作る際、一般の利用者が投稿した実際の画像付きの情報を与えることが、リアリティや緊張感をもたらし、良い訓練になると述べた。

2問目は、「BCP活動の陳腐化を防ぐための方策」について。竹内氏は「どのようにBCP活動を恒常的に回して継続的な改善を実施していくか、それによってどうやって定着化を図っていくか」を各社に尋ねた。

  • セブン-イレブン・ジャパン

中澤 剛

中澤氏は、「作っただけで終わりにしないため、点検と訓練・演習、そしてBCP改訂というPDCAサイクルを回していくことが大事」と述べ、9月1日の全社防災点検日の取り組みを紹介。部門の長、部長、課長がチェックリストを手書きで記入し、中澤氏がとりまとめて社長に報告するもので、「できていなくてもいいから、本音で報告」してもらい、いつまでにどう改善するかを記入してもらうことで徹底を図っていくと述べた。

古本氏は、定着化に向け、演習をテコにした取り組みに言及。演習の企画フェーズで「誰に何を気づかせる演習なのか」という目的を固定することが大切であり、それを現場の人が理解することで、現場が自らのアイデアで演習を組み立てていけるようになると説明した。また、事業部門によっては独自に演習を企画して自立して回していく動きが始まっており、この動きが他の事業部に伝播していくかどうかが、これからの課題であると報告した。

  • TDK

古本 勉

最後は「ジョブ型雇用時代における専門家の関わり」について。BCP・リスク管理専門のスタッフや部署の有無が会社組織によって異なる中、雇用形態・働き方の変化から、外部の専門家が社内組織を横断して活躍するケースも想定される。「専門家が必要かどうか」、「どういったかたちで活動してくのが望ましいか」について、3人に投げかけた。

中澤氏は、「事業継続計画あるいは事業継続戦略というものは、まさに企業経営そのもの」と強調し、「専門家というよりも自然災害を含む長期間の企業経営上のリスクを考え、事前の打ち手を考えられる人が必要」と、セブン-イレブン・ジャパンの事業継続に向けて、自身の自衛隊での経験を活かしていけるように取り組む考えを示した。

  • JX通信社

鈴木 大和

古本氏は、「専門家が自分の仕事を通じてどういうことを目指すのかを、自分の中にも据えておくことが大事」であり、一方で「企業は専門家を呼ぶときに、必要とする専門知識や経験知を具体化・詳細化した『職務記述書』を示すべき」と、双方がより明確な目的認識を持つことが不可欠であることを指摘。さらに、両者がタッグを組んで目標を共有することが大事であると語った。

鈴木氏は、専門家が「企画や計画、指揮には非常に長けている」一方で、「現場に落とし、定着化させるためにはエネルギーやパッションが必要」と指摘。「専門性に加え、現場を変えるといった情熱をお持ちの方が来てくれると、非常にフィットすると思う」と語った。

ディスカッションの締め括りとして、竹内氏は、「BCP・危機管理活動は組織の理念につながっている」ということを強調。一方、日本の組織自体が高齢化や人材不足、構造の問題や制度不良の問題もあり、うまくいかなくなっているところもあるとし、「そこをIT、DX、そして専門家を使って組織を活性化させる」ことの重要性を指摘した。

ただ、「組織活性化が最終目的ではなく、その向こうにお客様がいて、取引先・サプライチェーンの方がいて、もちろん投資家の方がいて、社会がある」とし、BCP・危機管理活動が「ソーシャルグッドにつながっていく」との考えを示し、BCP・危機管理担当者の活躍に期待を込めた。


JX通信社

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