編集部注:「リスク対策.com」本誌2014年1月25日号(Vol.41)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年6月24日)

新型インフルエンザ等対策特別措置法が2013年4月に施行された。この法律は、高い病原性と強い感染力をあわせもつ新型インフルエンザのような新しい感染症が発生した場合の対応について、都道府県、国、市区町村、企業、国民などがどのように行動するべきかの計画に関する枠組み、役割と権限を定めている。このような感染症が流行した場合、医療機関には多数の体調不良者が来訪する事態が容易に想定されるが、医療機関の職員も多数欠勤することが見込まれ、対応に支障が生じる懸念がある。 

このような事態が生じないためにも、医療機関は自ら積極的に事業継続計画の策定に取り組むことが望まれる。そこで、今回は医療機関の事業継続について考えてみたい。

参考とするべき資料
医療機関の事業継続計画策定にあたっては、国の行動計画やガイドライン、各自治体の行動計画の内容を確認することが前提となる。その上で、巻末に示した3つの文献は参考となる。 

いずれも感染症や公衆衛生への対策に長年携わってきた医師の手によるものであり、内容は甲乙つけがたく、すべて読了することを勧めたい。一方、表題に「診療継続計画」とあるように、これらの手引きは、医師の目線に立って、診療現場での対応がどのようなものであるべきかが中心となっている。少数の医師が中心となって運営している無床診療所などであればこれでもよいが、組織的な運営が行われている大規模病院の事業継続を考えるのであれば、リスクファイナンスや医薬品・医療用資機材の調達など、より多くのテーマについて、事業継続の観点からの検討を行うと、新型インフルエンザ等流行時の医療現場をより強固に支えることができると思われる。そこで、これら文献で示された検討のステップごとにポイントを検討したい。

ステップ1:対策検討のための組織を作る 
医療業務は、医師だけではなく、看護師、薬剤師、臨床検査技師といった医療従事者との連携によって行われている。また、大規模病院であれば、医療環境を維持・整備するために、多数の事務職員が勤務していることが多い。医師が医療の中核であることは間違いないが、これら多様な人々の協力なくして、対策は実行できない。 

そこで、対策検討の段階から医療従事者や事務職員を参加させ、多様な視点から検討を行うことが望ましい。特にその中でも看護師の果たす役割は大きいものがある。また、院内の清掃、調理、リネン、消毒など多様な業務を外部業者が行っている事例が多く、このような委託を行っている場合は、これら外部業者についても参画を求めるべきである。

ステップ2:二次医療圏の中で果たす役割は何かを明確にする
医療機関は、都道府県ごとに定められる二次医療圏(※)の中で、それぞれ果たすべき役割が定められている。新型インフルエンザ等への対策に当たっても、それぞれの医療機関ごとに果たすべき役割は異なる。

※都道府県が病床の整備を図るにあたって設定する地域的単位。地域保健医療計画に基づいていくつかの市町村をまとめる形で設定される。

例えば、国内での初発例の場合は、帰国者・接触者外来を設置する感染症指定医療機関が発症者へのケアを担当することになる。一般の医療機関が発症の疑いがある患者を診察した場合は、指定医療機関に転院させる対応となるだろう。だが、国内で大流行している状況になれば、市中のほとんどすべての医療機関が患者へのケアに当たらざるを得ない。このような状況でも新型インフルエンザ等にかかっていないハイリスク者(呼吸器系疾患の持病を持つ高齢者、妊婦等)に対して、必要なケアを提供していく中でどのように感染リスクを減少させるかなど様々なテーマについて、この二次医療圏ごとにその実情に合わせた議論を行い、決定することが原則的な対応とされている。 

医療機関が優先的に継続する業務を絞り込むに当たっては、二次医療圏の中でその医療機関に期待されている役割を明確にしなければならない。既に二次医療圏の中でこのテーマに関する協議が始まっているのであれば、その議論の中で自院の果たすべき役割を定めることになるだろう。地域によっては、この医療機関ごとの役割分担に関する協議が難航している事例も多数ある。この場合は、自院の役割について対策検討の組織の中でよく議論し、一定の合意を形成することが必要である。