2014/03/25
誌面情報 vol42
(2)災害対応業務の進行管理
危機管理教育・訓練支援システムを全面的に用いた今回の訓練では、重要付与の各個別行動について、各部局がいつ処理を始め、いつ終わらせたか、正確な記録が残っている。これをもとに、北九州市の各部局における災害対応業務の実施状況を見ることができる。図12は、地震直後で多くの緊急対応が生じる第1場面について、各部局がいくつの個別行動に取り組んでいたか、時系列で示したものである。市役所の部局は、総括部(いわゆる災害対策本部室)、消防部、区、その他の部局の4つに区分した。太線は、各時刻になされた重要付与の数を示し、9:30ごろがピークである。注目すべき点として、9:55前後から総合的な調整を担う総括部に多くの案件が集中し、業務が多忙を極める様子が見て取れる。北九州市では、この結果を踏まえ、災害時の総括部の役割について議論が始まっている。
このように、情報伝達・共有型図上訓練の考え方と危機管理教育・訓練支援システムを用いることにより、これまでの図上訓練では、はっきりとは示せなかった組織としての災害対応の課題を明確に見つけ出すことができた。なお、今回の北九州市総合防災訓練の結果については、さらに詳細な解析を実施中である。
7.おわりに
意志決定ネットワークの考え方には、さらなる発展の可能性がある。多くの市区町村でこのようなネットワークが「見える化」され、情報伝達・共有型図上訓練を通じて関係職員の間に顔の見える関係ができれば、どの部局の誰がどんな災害対応業務に習熟しているかが一目で分かるようになる。このような地方自治体が増えれば、他の地方自治体に対する応援もより円滑に実施できるようになろう。消防や医療など、いわゆるファーストレスポンダーについては、各団体の役割や他の団体との連携の仕方が定まっており、すでに広域的組織的な応援体制ができている。
しかしながら、大きな災害の後には、市民の生活に関わるさまざまな分野で広域的な応援が必要であり、そのような応援体制は、まだ試行錯誤の段階にある。
「目標」、「機能」、「ネットワーク」の考慮により誕生した「3人の機能的な知り合いづくり」は、地方自治体が災害時に行う意思決定を迅速化するための戦略の一つである。この戦略には順応性が要求されるため、「3人の機能的な知り合いづくり」は、地方自治体の組織体系や災害種別に関係なく活用できるように普遍的なものとなっている。このため、民間企業を含めた多様な組織に適用することも可能と思われる。今回は、住民の生命等を災害から保護するという地方自治体の災害対応方針に基づいて整理したが、民間企業において、たとえば被災後2日目から営業を再開するという方針のもとに「人命被害防止」、「被害拡大防止」、「財産被害防止」の目標を検討したらどうなるだろうか。「人命」とは、お客様、従業員・家族となり、それらに関わる情報は優先して処理されるべきものとなるであろう。目標による管理は、トップから現場レベルまで優先順位を共通認識化することである。行政組織に限らず、民間企業でご興味をお持ちの方は、貴組織の災害時の対応方針に基づき、「3人の機能的な知り合いづくり」を行うことにより、危機管理体制整備の第一歩を踏み出せると当研究チームでは考えている。
なお、http://www7b.biglobe.ne.jp/~tkato/kfex/にて当研究プロジェクトの関連情報を順次公開している。
地方自治体の危機管理担当者様へ
私たちは、これまでに述べた組織作りや図上訓練の考え方を様々な市区町村で検証し、より役立つ形に改良していくための活動を続けています。私たちが提案する図上訓練には、上述の図上シミュレーション型の他に、自治体の意志決定ネットワークの全体像を簡単に確認でき、手間も費用もほとんどかからない状況予測型もあります。この訓練では、災害対応のために必要な19の目的別に意志決定ネットワークを描いた点検確認票を使い、具体的な災害対応案件を念頭に置きながら、その適切さを職員で議論します(図13)。意志決定ネットワークを意識することにより、これまでの図上訓練とはひと味ちがった特長ある訓練となります。ご興味をお持ちのご担当者様は、本稿著者までご連絡ください。(E-mail:tkato@kitakyu-u.ac.jp)
謝辞
この研究開発は、北九州市危機管理室、同消防局、株式会社インフォグラム、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント株式会社、独立行政法人産業技術総合研究所の研究分担者の方々との密接な連携によって進められています。本稿で述べた成果の多くは、研究分担者の皆様の発想と努力によるものです。また、さまざまな場面で私たちの活動をご支援いただいている総務省消防庁、消防大学校消防研究センター、そして各地の地方自治体と消防関係機関の皆様に心より感謝を申し上げます。
<参考文献>
1)北九州市(2008)平成19年度北九州市総合防災訓練報告書、北九州市http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000041889.pdf
2)情報伝達・共有型図上訓練を用いた危機管理体制強化マネジメントプログラム研究チーム(2014) 訓練実施ガイドライン、同研究チーム
http://www7b.biglobe.ne.jp/~tkato/kfex/
3)林優樹、加藤尊秋、谷延正夫、梅山吾郎、山下倫央、野田五十樹(2014):主要都市における災害時意志決定ネットワークの分類:避難勧告発令及び避難所開設に着目して、地域安全学会論文集(印刷中).
4)加藤尊秋、山下倫央、野田五十樹、梅山吾郎、谷延正夫、郡山一明(2012):市町村の災害時意志決定ネットワーク:現状と展望、日本リスク研究学会講演論文集、Vol.25、pp197-200.
5)図上演習研究会(編)(2011)図上演習入門、内外出版
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