【ソウル時事】韓国の尹錫悦大統領は10日、就任から1年を迎えた。民主主義や自由を重視する日米などとの連携強化を目指す「価値観外交」を展開。韓国の対外政策は、北朝鮮や中国との関係を重視した文在寅前政権から一変した。ただ、北朝鮮は尹政権に激しく反発。保守勢力に支えられている尹氏の方針に幅広い国民が賛意を示しているわけでもなく、支持率は就任1年としては歴代最低水準に落ち込んでいる。
 「外交、安全保障ほど変化を遂げた分野はない」。就任1年を翌日に控えた9日、尹氏は閣議でこう強調してみせた。尹氏は自由や民主主義、人権といった「普遍的価値」に立脚し、外交を主導してきた。3月の訪日に続き、4月に韓国大統領としては12年ぶりに国賓として米国を訪問。5月7、8両日には岸田文雄首相をソウルに迎え、日韓シャトル外交を再開させた。
 尹氏が日米との連携強化を急ぐのは、朝鮮半島を取り巻く安全保障情勢への強い危機感があるからだ。北朝鮮は尹政権を「南朝鮮かいらい逆徒」と非難し、米韓合同軍事演習に合わせてミサイル発射を繰り返す。これに対し、尹氏は「韓国の安全保障の形が変わった」と強調し、日米間の連携により対抗する方針を明確にしている。
 米中の軍事的緊張の高まりも尹氏の判断に影響している。台湾有事が起これば、米国の同盟国である韓国も座視できない。尹政権は昨年12月、ルールに基づく秩序の構築を記した「インド太平洋戦略」を発表し、対中国でも日米と足並みをそろえた。
 尹氏の外交方針に対して「日本に譲歩しすぎだ」といった反発が広がる。経済的なつながりが深い中国との関係悪化に経済界からは懸念も出ている。国会は野党が多数を占めており、法改正を伴う対策を打ち出しにくいという実情もある。
 尹氏の支持率は就任当初50%を超えていたが、最近は30%台に低迷。2008年に大統領に就任した李明博氏とほぼ同じで、極めて低い水準となっている。保守系紙・東亜日報は社説で「理念より実用を、(国民との)意思疎通を前面に出す柔軟な政策に転換するべきだ」と、尹氏に求めた。 
〔写真説明〕韓国の尹錫悦大統領=4月26日、ワシントン(EPA時事)
〔写真説明〕握手する岸田文雄首相(左)と韓国の尹錫悦大統領=7日、ソウルの大統領府

(ニュース提供元:時事通信社)