BCPの目的は「人命第一」なのか?
第8回:いのちだいじにの問題点

荻原 信一
長野県松本市出身。大学卒業後、1991年から大手IT企業に勤務。システム開発チームリーダーとして活動し、2005年にコンサルタント部門に異動。製造業、アパレル、卸業、給食、エンジニアリング、不動産、官公庁などのコンサルティングを手がける。2020年に独立。BCAO認定事業継続主任管理士、ITコーディネータ。
2024/04/09
ざんねんなBCPあるある―原因と対処
荻原 信一
長野県松本市出身。大学卒業後、1991年から大手IT企業に勤務。システム開発チームリーダーとして活動し、2005年にコンサルタント部門に異動。製造業、アパレル、卸業、給食、エンジニアリング、不動産、官公庁などのコンサルティングを手がける。2020年に独立。BCAO認定事業継続主任管理士、ITコーディネータ。
BCPで規定した計画と現実との間のギャップを、多くの企業に共通の「あるある」として紹介し、食い違いの原因と対処を考える本連載。第2章では「BCPの実効性、事業継続マネジメント、発生コスト」のなかに潜む「あるある」を論じています。前回は初動・災害対策本部について言及しましたが、今回は事業継続戦略の「あるある」を取り上げます。
②事業継続戦略
・いのちだいじに(中堅・金融業・経営部門)
命大事に。もちろんです。
ページをめくっていくと、地震が起きた場合の身の安全の確保の方法、火災を発見した場合の行動、自衛消防隊の組織図と活動内容、消火器の使い方、各拠点の建物の避難経路、広域避難場所の地図、AEDの使い方、人工呼吸の方法、怪我や骨折の対処法、トリアージタグの説明、備蓄食品の調理法、泥水のろ過の方法、食べられる植物と食べてはいけない植物、食べられるキノコの見分け方などなど、詳細に、図解入りで記載されています。
どんどんどんどんページをめくっていくうちに、いま何が起こっても自分は生き残ることができる自信がわいてきました。ただ、こんな都心に食べられる植物やキノコがどれだけ生えているのか少し心配になりました。
しかし、そんな自信とは裏腹に、なかなかBCPがはじまりません。不安になって表紙に戻ってみましたが、タイトルは「事業継続計画書」とあります。目次も確認しましたが、事業継続についてという項目もありました。
ページをめくり続け、結局、最後の数ページにありました。しかし、その内容を強引に要約すると「状況によって柔軟に対応する」程度の数行の記述しかありませんでした。
この事例は、防災活動や救助活動にかかわる内容が盛り沢山な状態で、肝心のBCP部分がチープだったというものです。スタートダッシュを頑張りすぎて息切れしてしまったのかもしれませんし、防災計画の延長でBCPをつくればいいという指南を参照してつくったBCPがそのまま見直しされることなく残っているのかもしれません。
さらに、もう一つの重要な原因があると考えます。それは、BCPの目的に「人命が第一」と書いてしまっているからです。実際、いくつかの企業のBCPでこれを見てきましたし、その多くの場合、BCPの目的の1行目にこのことが書いてありました。
確かに、人命第一は大事です。「はじめに人命ありき」という企業の姿勢を従業員に知らしめたい気持ちも十分に理解できます。しかし、BCPの目的に人命を優先すると書いてしまうから、まずそこから始めようとしてしまい、防災との混同が生じてしまうのです。
ざんねんなBCPあるある―原因と対処の他の記事
おすすめ記事
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方