2024/05/02
防災・危機管理ニュース
【北京、台北時事】11月の米大統領選を控え、中国と台湾はそれぞれ「もしトラ(もしもトランプ前大統領が返り咲いたら)」に備えている。習近平政権は、同盟軽視の姿勢が目立つトランプ氏の当選で「中国包囲網」に亀裂が生じることを期待する半面、対中関税の引き上げを警戒。一方の台湾では、米国の関与低下への危機感が広がっている。
◇米同盟国揺さぶり
「自国の利権のために外国勢力と結託しても、いずれ捨て駒にされる。歴史が証明していることだ」
中国外務省の毛寧副報道局長は4月、ワシントンで行われた日米比首脳会談を受けて、こう述べた。トランプ政権が再来した場合に、米国と同盟国の安全保障協力が停滞する可能性を念頭に、日本とフィリピンに揺さぶりをかけた形だ。中国政府は1月、台湾に関しても「(トランプ氏が復帰すれば)捨て駒に変わる」と指摘していた。
「もしトラ」への不安に付け入るように、習政権は欧州への外交攻勢を強化。3、4月にオランダのルッテ首相やショルツ独首相を北京に招いたのに続き、今月5日から習国家主席がフランスなど3カ国を訪問する。
「米国第一主義」を掲げるトランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国への防衛義務に否定的な持論を展開し、気候変動協定から再離脱する意向も示している。習政権はこうしたトランプ氏の言動を、米欧間にくさびを打ち込む好機と捉えているもようだ。トランプ氏は対中関税を60%超に引き上げるとも公言しており、米中貿易戦争の激化に備え、欧州と経済・貿易面での結び付きを強めておく狙いもありそうだ。
◇現政権と協力拡大
台湾は、トランプ氏の政権復帰で、米国の台湾政策が不安定化することを警戒している。トランプ氏は台湾問題への関心が薄く、「台湾の戦略的重要性を軽視している」(台湾の識者)という見方が強い。20日に総統に就任する頼清徳氏は、バイデン大統領の任期中に米国との安全保障協力を可能な限り拡大しておきたい考えだ。
トランプ氏は前政権で、高官の相互往来を促進する「台湾旅行法」に署名するなど米台関係を強化した。しかし、貿易問題で対立する中国への「カード」として、台湾を利用しているという評価が付きまとった。
また、中国が台湾に侵攻した場合の対応について、バイデン氏が繰り返し米軍の介入を明言してきたのに対し、トランプ氏は「中国との交渉で不利になる」として、方針を明らかにしていない。台湾では、トランプ氏と中国のディール(取引)の結果として「台湾の利益が犠牲になる可能性がある」(成功大の王宏仁教授)との懸念がくすぶる。
頼次期政権では、蔡英文政権の中枢メンバーが安全保障政策を担うことが決まっている。中山大の郭育仁教授は「蔡政権が進めた米国との安保協力をスムーズに引き継ぎ、前進させることは、米国の政権交代への備えにもなる」と解説する。蔡政権はトランプ前政権と協力関係を築いた経験もあり、当時のパイプを生かせる可能性もある。
〔写真説明〕中国の習近平国家主席=3月10日、北京(AFP時事)
〔写真説明〕トランプ前米大統領=4月30日、ニューヨーク(EPA時事)
〔写真説明〕台湾の頼清徳次期総統=4月10日、台北(AFP時事)
(ニュース提供元:時事通信社)
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