2023/02/08
寄稿>弁護士による法制度解説

カルテルや入札談合は、独占禁止法によって禁止されています。報道等でもよく耳にする言葉かと思いますが、これらの概念や関係性を正確に理解するのは簡単ではありません。コンプライアンス確保・ガバナンス構築に不可欠な独占禁止法の理解を深めるため、主要な点を弁護士・公認不正検査士の山村弘一氏に解説いただきます。第2回は公正取引委員会と「事業者」「事業者団体」について取り上げます。
東京弘和法律事務所/弁護士・公認不正検査士 山村弘一
はじめに
独占禁止法における3本柱として、①私的独占の禁止(3条)、②不当な取引制限の禁止(3条)、③不公正な取引方法の禁止(19条)が挙げられます。
この3本柱の違反に対する制裁として、㋐違反行為を排除するために必要な措置等を命じることのできる排除措置命令(7条、20条)、㋑金銭の納付を命じる課徴金納付命令(7条の2、20条の2)、㋒懲役や罰金を科す刑罰(89条、95条)とが定められています。ただし、刑罰に関して、③の不公正な取引方法については、排除措置命令に従わない場合に罰するというものになっています(90条3号。いわゆる間接罰規定)。

制裁のうち、㋐排除措置命令と㋑課徴金納付命令は、公正取引委員会が命じる行政処分となります。また、㋒刑罰については、公正取引委員会による告発がなければ公訴を提起できない(起訴できない)という特殊な仕組みになっています(96条1項)。これらのことから明らかなように、独占禁止法における公正取引委員会の権限・役割は大きなものといえます。
今回は、独占禁止法の運用の主体として不可欠の機関である公正取引委員会と、同法の適用主体(禁止の名宛人)である「事業者」「事業者団体」について取り上げたいと思います。
公正取引委員会とは
公正取引委員会は、内閣府の外局として設置された行政委員会です(内閣府設置法49条、64条)。
行政委員会に関して、憲法65条において「行政権は、内閣に属する」と規定されていることとの関係で、「各行政機関は、原則として、直接又は間接に内閣の指揮監督に服するものとされる。しかし、その権限ないし所掌事務の性格から、多かれ少なかれ上級の指揮監督機関から独立にその権限を行使する行政機関が存在する。このような行政機関を独立行政機関又は独立機関という。ここには、会計検査院、人事院や公正取引委員会のような行政委員会などが含まれる」(『法律学小辞典[第5版]』、有斐閣、2016年、1012頁)とされています。
独占禁止法を運用するという専門的で中立的な役割や、その役割を果たすために付与されている各種の権限に鑑み、内閣からの独立性を担保された行政委員会として、公正取引委員会が設置されているといえます。
公正取引委員会は、「委員長及び委員4人を以て、これを組織する」(独占禁止法29条1項)と規定されているところ、「公正取引委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う」(28条)とされ、その職権行使における独立性が明文で定められています。
また、31条では、「委員長及び委員は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、在任中、その意に反して罷免されることがない」とされ、その罷免事由が6個ほど限定列挙されています。この身分保障によっても、公正取引委員会の独立性が担保されているものといえます。
加えて、「公正取引委員会は、委員長及び2人以上の委員の出席がなければ、議事を開き、議決することができない」(34条1項)、「公正取引委員会の議事は、出席者の過半数を以て、これを決する。可否同数のときは、委員長の決するところによる」(同条2項)、「排除措置命令、納付命令、競争回復措置命令、第48条の3第3項の認定及び第48条の7第3項の認定並びにこの節の規定による決定(中略)は、委員長及び委員の合議によらなければならない」(65条1項)と規定され、公正取引委員会は合議制の機関として設計されています。
このように、公正取引委員会は、内閣府の外局として設置されているものの、内閣からの独立性を担保された行政委員会であり、合議制の機関であるといえます。
寄稿>弁護士による法制度解説の他の記事
- 【第6回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第5回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第4回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第3回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第2回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方