第4回 仕事と介護の狭間で
~キャリアへの影響と対策~
困難を乗り越える力

八重澤 晴信
医療機器製造メーカーで39年の実務経験を持つ危機管理のプロフェッショナル。光学機器の製造から品質管理、開発技術を経て内部統制危機管理まで経営と現場の「翻訳者」として活躍。防災士として国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンDRR分科会幹事も務める。
2025/04/26
忍び寄る親の介護リスク
八重澤 晴信
医療機器製造メーカーで39年の実務経験を持つ危機管理のプロフェッショナル。光学機器の製造から品質管理、開発技術を経て内部統制危機管理まで経営と現場の「翻訳者」として活躍。防災士として国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンDRR分科会幹事も務める。
「お母さんが新型コロナウイルスに感染してしまったようです」
ケアマネジャーからの突然の電話に、私は会議室の隅でうつむきながら小さな声で答えました。「…すぐには行けません。本社の新型コロナウイルス対策本部の任務があるので…」
「でも、症状が悪化した場合は入院が必要になるかもしれません。小規模多機能の職員が防護服を着用して対応していますが…」
この電話を受けたとき、私は会社での重要な任務の真っ只中でした。皮肉なことに、新型コロナウイルス対策本部の主査として、社内の感染対策に関わっている立場だったのです。そんな中で「母親が感染したので休みます」と言い出せるだろうか―。
前回までは要介護認定の仕組みや施設選びなど、制度面の話をしてきました。しかし、実際に多くの方が直面するのは、このような「仕事と介護の衝突」です。特にサラリーマンにとって、突然の介護は単なる「家庭の問題」ではなく、キャリアや将来設計に大きな影響を与える問題なのです。
誰にでも起こりうるこの問題に、私はどう対処してきたのか。そして、これから介護に直面するかもしれないあなたに、何を準備しておいてほしいのか。本稿では私の実体験をもとに、泥臭いリアルな対応策をお伝えします。
私の場合、母親の認知症が進行していることは薄々感じていたものの、「まだ大丈夫」と思い込んでいました。しかし、実際には既に状況は深刻化していたのです。
母親がCOVID-19に感染したという知らせは、まさに最悪のタイミングでした。私自身が会社の新型コロナウイルス対策本部の主査として、社員の安全確保や事業継続に関わる業務に従事していたのです。休むことはほぼ不可能な状況だと自己判断していました。
結局、小規模多機能型居宅介護の職員の方々が、防護服を着用して献身的に母を看病してくれることになりました。自宅に設置したカメラを通じて、彼らの懸命な姿を見ながら、私は東京の会社で対策本部業務に追われる日々。「母親のもとに駆けつけられない」という罪悪感と、「会社の重要な任務がある」という責任感の間で板挟みになりました。
この間の私の状態は悲惨でした。精神的な負担による睡眠不足、常に母の状態が悪化するのではという不安、さらには「両方の責任を果たせていない」という自責の念。介護の実態を会社で相談できず、一人で抱え込んだ結果、心身ともに疲弊していきました。
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