2023/04/06
寄稿>弁護士による法制度解説
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/d/9/670m/img_d9701b18b0e157f272fb28b606af597c186813.jpg)
独占禁止法の主要な点を弁護士・公認不正検査士の山村弘一氏に解説いただく短期集中寄稿。前回は同法における重要な制裁である課徴金納付命令を説明しましたが、この命令で特筆すべきは事業者が自主的に違反行為を公正取引委員会に報告することで課徴金が減免される制度が設けられていること。今回はこの制度について説明します。
東京弘和法律事務所/弁護士・公認不正検査士 山村弘一
はじめに
前回、独占禁止法における重要な制裁である課徴金納付命令(7条の2、7条の9、20条の2等)についてご説明しました。この課徴金納付命令に関して特筆すべきは、課徴金減免制度という制度が設けられていることであるといえます。今回は、この課徴金減免制度をご説明したいと思います。
課徴金減免制度とは
課徴金減免制度とは、事業者が自主的に違反行為を公正取引委員会に報告することにより、課徴金が減免(減額又は免除)されるという制度です。「事業者自らがその違反内容を報告し、更に資料を提出することにより、カルテル・入札談合の発見を容易化し、事件の真相解明を効率的かつ効果的に行うことにより、競争秩序を早期に回復することを目的」※としていると説明されています。
※公正取引委員会ウェブサイトより引用
https://www.jftc.go.jp/dk/seido/genmen/genmen_2.html
課徴金減免制度の対象となる違反行為については、カルテル・入札談合(購入カルテルを含む)に限られていますので(7条の4第1項-7条の2第1項参照)、この点に留意が必要です。
また、この課徴金減免制度の評価に関して、文献では、公正取引委員会の行政処分における課徴金減免制度の運用実績に照らして、制度が我が国の経済社会に定着しているといえることや、「同一企業・類似業界が異なる違反行為の課徴金減免申請を行っている」例があることに照らして、「制度が社内コンプライアンスを促す可能性を示唆している」との指摘がなされています(『新経済刑法入門[第3版]』、斉藤=浅田=松宮=髙山編著(中里浩執筆部分)、成文堂、2020年、245頁)。
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/1/f/670m/img_1f91778e65285f99733206bd193f795129725.jpg)
この指摘から示唆されるように、課徴金減免制度の存在を踏まえ、カルテルや入札談合が、残念ながら仮になされてしまった場合においても、事業者内において速やかにその情報が収集され、課徴金減免制度の適用を受けるべく適切・迅速に対応していくことのできる体制を整えておくことが、各事業者において、コンプライアンス確保やガバナンス構築の観点から重要になるといえます。
寄稿>弁護士による法制度解説の他の記事
- 【第6回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第5回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第4回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第3回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
- 【第2回】要点概説・独占禁止法―コンプライアンス確保・ガバナンス構築のために―
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方