2025/04/23
トレンド
常識をくつがえす山火事

かつてない延焼

2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのか。その理由を「極端な乾燥と強風という気象条件が重なったため」と説明する。
2月に発生した岩手県大船渡市では市の面積の約1割にあたる約3370ヘクタールが焼失した。3月には岡山県岡山市で約565ヘクタール、愛媛県では今治市と隣接する西条市を含めると約442ヘクタールが燃えた。過去を振り返ると山林火災の発生は特段珍しい現象ではない。林野庁の発表によると2019年から2024年までの期間で平均すると1年間で約1300件が発生し、約700ヘクタールが焼失している。
しかし、一連の山火事だけでも、焼失面積は年間平均の6倍を超えた。大規模な延焼にともない被害も拡大した。大船渡市では1人が死亡し、住宅を含む221棟が全焼などの被害を受けた。岡山市では6棟、今治市では22棟が犠牲になった。
被害拡大の原因となった極端な乾燥と強風がもたらしたのが、災の「質」の変化だ。山火事には「地表火」と「樹冠火」という2つのタイプがある。従来の日本の山火事では、落ち葉や下草が燃える「地表火」が主だった。炎は高い樹木には燃え移らず、樹木はすすけるていど。一定の湿度が保たれていたためだ。しかし、今回は乾燥で地表火も激しくなり、樹木に着火。炎は燃え上がり、樹木の上部まで達する「樹冠火」が発生した。炎は燃焼した上部の枝や葉から、隣接する樹木に広がる。樹木の上部は風が強く、燃焼スピードが加速。被害は一気に拡大する。
山の斜面という地形的な特徴も延焼の勢いを増加させる。炎によって生じた上昇気流がさらに空気を吹き込み、酸素が供給されるからだ。まるで斜面をかけあがるように、炎が頂上に向かって広がっていく。
事態を悪化させるのは地形的要因だけでなはない。延焼範囲をさらに拡大させるのが飛び火だ。「樹冠火は飛び火を引き起こしやすい。強風に加え、火災も上昇気流を発生させます。結果的に上空を火の粉が飛び交う。移動先で火災を発生させる」と串田教授は話す。今治市の現地視察では、飛び火の痕跡がいくつも確認できたという。
トレンドの他の記事
- ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
- ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
- 緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
- 常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/26
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方