炎が樹木の上部まで達する「樹冠火」により延焼が拡大(イメージ/Adobe Stock)

かつてない延焼

山火事に詳しい日本大学・串田圭司教授

2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのか。その理由を「極端な乾燥と強風という気象条件が重なったため」と説明する。

2月に発生した岩手県大船渡市では市の面積の約1割にあたる約3370ヘクタールが焼失した。3月には岡山県岡山市で約565ヘクタール、愛媛県では今治市と隣接する西条市を含めると約442ヘクタールが燃えた。過去を振り返ると山林火災の発生は特段珍しい現象ではない。林野庁の発表によると2019年から2024年までの期間で平均すると1年間で約1300件が発生し、約700ヘクタールが焼失している。

しかし、一連の山火事だけでも、焼失面積は年間平均の6倍を超えた。大規模な延焼にともない被害も拡大した。大船渡市では1人が死亡し、住宅を含む221棟が全焼などの被害を受けた。岡山市では6棟、今治市では22棟が犠牲になった。

被害拡大の原因となった極端な乾燥と強風がもたらしたのが、災の「質」の変化だ。山火事には「地表火」と「樹冠火」という2つのタイプがある。従来の日本の山火事では、落ち葉や下草が燃える「地表火」が主だった。炎は高い樹木には燃え移らず、樹木はすすけるていど。一定の湿度が保たれていたためだ。しかし、今回は乾燥で地表火も激しくなり、樹木に着火。炎は燃え上がり、樹木の上部まで達する「樹冠火」が発生した。炎は燃焼した上部の枝や葉から、隣接する樹木に広がる。樹木の上部は風が強く、燃焼スピードが加速。被害は一気に拡大する。

山の斜面という地形的な特徴も延焼の勢いを増加させる。炎によって生じた上昇気流がさらに空気を吹き込み、酸素が供給されるからだ。まるで斜面をかけあがるように、炎が頂上に向かって広がっていく。

事態を悪化させるのは地形的要因だけでなはない。延焼範囲をさらに拡大させるのが飛び火だ。「樹冠火は飛び火を引き起こしやすい。強風に加え、火災も上昇気流を発生させます。結果的に上空を火の粉が飛び交う。移動先で火災を発生させる」と串田教授は話す。今治市の現地視察では、飛び火の痕跡がいくつも確認できたという。