【香港時事】東京電力福島第1原発の処理水放出への対抗措置として、福島など10都県からの水産物の輸入禁止に踏み切った香港。市民の間では「全く心配しておらず、これからも日本の魚を食べる」(20代男性)との受け止めが多く、抗議や嫌がらせが多発している中国本土とは一線を画す。
 しかし、食材仕入れの問題から、輸入業者や飲食店には売り上げ減などの影響が出始め、閉店に追い込まれた日本料理店も。「今後のことは(香港政府の背後にいる)中国政府の出方次第だ」(関係者)と、問題の長期化や風評被害の拡大への懸念が強まっている。
 ◇売り上げ3割減
 「長丁場を覚悟している」。香港日本料理店協会の氷室利夫会長(60)は影響が長引くことへの不安を隠さない。マグロなど日本産水産物の輸入・販売会社ゼンフーズを経営する氷室氏は「生鮮品の売り上げは年初から約3割落ち込んでいる」と指摘。「高級すし店への打撃が特に大きい。今後は関西や九州との取引が増える」とみる。
 日本食文化が根付いている香港には、約2000の日本料理店があるとされる。人気を支えるのが、東京・豊洲市場で朝仕入れた鮮魚を空輸し、当日夜に香港の飲食店で提供する「デイゼロ」と呼ばれる流通システムだ。
 しかし、香港政府は6月から日本産の放射性物質検査を強化。無差別に選んだ水産物の検査に1時間以上かかっており、デイゼロの継続が難しくなる恐れもある。香港系水産物輸入大手は「検査には反対しないが、鮮度に影響するため、人員を増やすなどして検査時間を短縮してほしい」(幹部)と訴える。
 ◇「賢明な判断」に期待
 日本産水産物の2023年1~6月の輸出先のうち、香港は516億円とトップ。中国本土の456億円を上回り、全体の約25%を占めた。
 処理水放出海域のトリチウム濃度が基準値を下回ったといった日本側の検査結果は香港でも報道され、市民レベルでは冷静な対応が目立つが、日本産食品全体への風評被害を心配する声は根強い。漬物や豆腐、青果物などを取り扱う香港金久の責任者、山本和樹さん(58)は「日本産食材を購入するお客さまが減るかもしれない」と憂慮。「香港の消費者が賢明な判断をしてくれると期待している」と語る。
 日本料理店を2店舗経営する福島県いわき市出身の山野辺剛さん(54)は「香港の方々には処理水が安全なことを理解した上で、日本の魚を食べ続けてもらいたい」と話している。 
〔写真説明〕香港中心部のスーパーに並ぶ日本の魚介類=27日
〔写真説明〕香港中心部の店舗に並ぶ刺し身やすし=25日

(ニュース提供元:時事通信社)