【サンパウロ時事】非常事態を宣言しているカリブ海の島国ハイチのアンリ首相は11日、暫定首相が選ばれ次第、辞任すると表明した。政権移行を進めて、ギャングによる暴力の嵐が吹き荒れる事態を収拾する狙いがある。最貧国の同国にとって困窮した人々の生活への対応は待ったなし。だが治安を改善して、早期の選挙を通じた新政権発足につなげられるのか不透明感が強い。
 アンリ氏は11日夜にSNSに投稿した動画で、辞意表明に際し「ハイチにとって大き過ぎる犠牲などない」と心情を明かした。同日にはジャマイカでカリブ共同体(カリコム)がハイチに関する緊急会合を開催。ハイチの主要政党や民間団体などの代表者7人と2人のオブザーバーから成る「暫定大統領会議」を設置する計画が支持されたと発表した。選挙を経て正式な政権が発足するまで会議には大統領並みの権限が与えられ、設置後直ちに暫定首相が選ばれる。
 2016年を最後に選挙が行われていないハイチでは、21年7月のモイーズ大統領の暗殺後にアンリ氏が首相に就任。選挙の洗礼を受けていない同氏の政権基盤は弱い。間隙(かんげき)を縫うようにギャングが勢力を拡大し、首都ポルトープランスの大部分を支配下に収めた。
 アンリ氏は23年中に選挙を実施し、2月7日までに辞任すると約束していたが、治安状況を理由に断念。国内で反発が強まり、混乱に乗じたギャング団が今月に入り刑務所を襲撃し、囚人4500以上が脱獄した。空港や港も標的となり、政府は非常事態を宣言した。
 ハイチは長期化する治安悪化が追い打ちをかけ、人々の生活は厳しい。国連の世界食糧計画(WFP)は12日、140万人が飢餓の一歩手前にあるとし、「ハイチが壊滅的な飢餓の危機の瀬戸際にある」と警告した。こうした中、日本はWFPの計画に204万ドル(約3億円)を拠出。約4000世帯に1年にわたり食品などと交換できる利用券が配られる。
 治安改善に向け期待される国際部隊の派遣にも暗雲が広がる。ロイター通信によると、国連決議に基づく部隊を主導するケニアはアンリ氏の辞任表明を受けて、新政権が発足するまで派遣を見合わせると発表した。アンリ氏がケニアを直接訪問し、派遣を巡る合意文書に署名したばかりだった。 
〔写真説明〕ハイチのアンリ首相=1日、ケニア・ナイロビ(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)