2021/05/11
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスク
データ侵害の報告
米バイデン政権が緊急で進めている大統領命令(執筆時点)は、2020年末に発覚したSolarWinds社へのセキュリティー侵害をきっかけに、国家のサイバーセキュリティーを根本的に改善することを目指している。
SolarWinds社へのセキュリティー侵害とは、米国政府機関などのソフトウエアベンダーである同社でセキュリティー侵害が発生したことによって、少なくとも9つの政府機関と100の米国企業が侵害されたとされている事件のことだ。
このセキュリティー侵害では、トランプ政権での国土安全保障省高官の電子メールアカウントにも不正にアクセスされていたことが発覚しており、SolarWinds社への攻撃とMicrosoft Exchangeの電子メールプログラムに影響を与える脆弱(ぜいじゃく)性によって、さらに広範囲に被害が及んでいることが懸念されている。
実際、連邦航空局では時代遅れの技術によって対応が妨げられ、SolarWinds社のソフトウエアを実行しているサーバーの数を特定するだけでも数週間を要したということも発生している。検出されていない侵害が存在する可能性を恐れて、米連邦政府は2021年3月にMicrosoft ExchangeのサーバーをスキャンしてCISAに報告することをベンダーに命じた*3。
不正侵入の痕跡を特定するための2つのツール*4 *5を用いたスキャンには数時間を要し、サーバーのリソースが不足する可能性もあるため、オフピーク時に実行することを推奨しているが、最初のスキャンから4週間は毎週スキャンすることが求められており、侵害を示す結果があればCISAに報告する必要があるとされている。
ちなみに、過去にも連邦議会ではデータ侵害を報告するための法を確立しようとする動きはあった。しかし、その度に業界からの抵抗で成立することはなかった。ところが今回は、甚大な規模と範囲に影響を及ぼすセキュリティー侵害が発生したため、これを機にドラスティックに進めていこうという機運がある。
サプライチェーンリスクを軽減するためには
SolarWinds社へのセキュリティー侵害を機に、米連邦政府ではサプライチェーンからもたらされる脅威に注意を向けている。これまでもNotPetyaランサムウェアによる攻撃などでもサプライチェーンは狙われてきており、目新しいものではないことをここでは付け加えておく。
2021年4月にはNCSC(米国家防諜安全保障センター)より、サプライチェーンの脅威と軽減策の認識を高めるための行動を促す文書*6が公表された。
国外の敵対者がスパイ活動、情報の窃取、妨害行為における攻撃ベクトルとして、企業や信頼できるサプライヤーを利用することがますます増えていること。そして、米国政府と産業を支える製品とサービスが危険に晒され、知的財産、仕事、経済的優位性を失い、軍事力を低下させていることに触れている。
また、ここではソフトウエア・サプライチェーンの脅威となったSolarWinds社へのセキュリティー侵害にも触れ、国家の原動力となるサプライチェーンの回復力・多様性・セキュリティーを強化する必要性について言及している。
前述の大統領令においてもソフトウエア・サプライチェーンの脅威に注意を向けており、政府全体で使用されているすべてのプログラムに「ソフトウエア部品表」を要求している。オープンソースやパートナーによる部分を含むすべてのソースコードが対象とされており、使用するソフトウエアが増えることで潜在的に高まる脆弱性のリスクに備えようというものである。
もはや単一の企業や組織の努力だけで、サイバー攻撃は防ぐことができないのだ。
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスクの他の記事
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/26
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方