データ侵害の報告

米バイデン政権が緊急で進めている大統領命令(執筆時点)は、2020年末に発覚したSolarWinds社へのセキュリティー侵害をきっかけに、国家のサイバーセキュリティーを根本的に改善することを目指している。

SolarWinds社へのセキュリティー侵害とは、米国政府機関などのソフトウエアベンダーである同社でセキュリティー侵害が発生したことによって、少なくとも9つの政府機関と100の米国企業が侵害されたとされている事件のことだ。

このセキュリティー侵害では、トランプ政権での国土安全保障省高官の電子メールアカウントにも不正にアクセスされていたことが発覚しており、SolarWinds社への攻撃とMicrosoft Exchangeの電子メールプログラムに影響を与える脆弱(ぜいじゃく)性によって、さらに広範囲に被害が及んでいることが懸念されている。

実際、連邦航空局では時代遅れの技術によって対応が妨げられ、SolarWinds社のソフトウエアを実行しているサーバーの数を特定するだけでも数週間を要したということも発生している。検出されていない侵害が存在する可能性を恐れて、米連邦政府は2021年3月にMicrosoft ExchangeのサーバーをスキャンしてCISAに報告することをベンダーに命じた*3

不正侵入の痕跡を特定するための2つのツール*4 *5を用いたスキャンには数時間を要し、サーバーのリソースが不足する可能性もあるため、オフピーク時に実行することを推奨しているが、最初のスキャンから4週間は毎週スキャンすることが求められており、侵害を示す結果があればCISAに報告する必要があるとされている。

ちなみに、過去にも連邦議会ではデータ侵害を報告するための法を確立しようとする動きはあった。しかし、その度に業界からの抵抗で成立することはなかった。ところが今回は、甚大な規模と範囲に影響を及ぼすセキュリティー侵害が発生したため、これを機にドラスティックに進めていこうという機運がある。

サプライチェーンリスクを軽減するためには

SolarWinds社へのセキュリティー侵害を機に、米連邦政府ではサプライチェーンからもたらされる脅威に注意を向けている。これまでもNotPetyaランサムウェアによる攻撃などでもサプライチェーンは狙われてきており、目新しいものではないことをここでは付け加えておく。

2021年4月にはNCSC(米国家防諜安全保障センター)より、サプライチェーンの脅威と軽減策の認識を高めるための行動を促す文書*6が公表された。

国外の敵対者がスパイ活動、情報の窃取、妨害行為における攻撃ベクトルとして、企業や信頼できるサプライヤーを利用することがますます増えていること。そして、米国政府と産業を支える製品とサービスが危険に晒され、知的財産、仕事、経済的優位性を失い、軍事力を低下させていることに触れている。

また、ここではソフトウエア・サプライチェーンの脅威となったSolarWinds社へのセキュリティー侵害にも触れ、国家の原動力となるサプライチェーンの回復力・多様性・セキュリティーを強化する必要性について言及している。

前述の大統領令においてもソフトウエア・サプライチェーンの脅威に注意を向けており、政府全体で使用されているすべてのプログラムに「ソフトウエア部品表」を要求している。オープンソースやパートナーによる部分を含むすべてのソースコードが対象とされており、使用するソフトウエアが増えることで潜在的に高まる脆弱性のリスクに備えようというものである。

もはや単一の企業や組織の努力だけで、サイバー攻撃は防ぐことができないのだ。