2021/05/11
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスク
セキュリティー対策の特効薬
最後に、前述のNCSCによる文書*6からサプライチェーンリスクを管理していくための基本について紹介しておこう。
まず、サプライチェーンのもたらす脅威に対して、特効薬としての唯一の解決策は存在しない。その上で、組織がサプライチェーンの回復力を強化するために少なくとも以下に掲げる5つの基本原則を検討することをNCSCでは奨励している。
・サプライチェーンを多様化しておくことでサプライヤーが侵害されたり、供給不足やその他の混乱に遭った際の回復力を確保する。商品またはサービスが単一の供給源のみから調達されている場合、そこが障害の発生点となる。
・サードパーティのリスクを軽減するために、サプライヤーに対して強力なデューデリジェンスを実施し、サプライヤーのセキュリティー対策・対応を理解し、サプライヤーの最低基準を設定する。また、セキュリティー要件をサードパーティとの契約書に組み込み、製品またはサービスのライフサイクル全体でコンプライアンスを監視する。
・重要な資産を特定し保護する。そのために、重要な資産の場所とステータスをマッピングし、それらの保護に優先順位を付ける。また、システムとネットワークのパフォーマンスを監視することで、中断の影響を最小限に抑える。
・サプライチェーンリスクの責任者として経営層を指名し、利害関係者をリスク軽減プログラムの当事者とすることで、エグゼクティブレベルのコミットメントを確保する。組織全体でコミュニケーションを取り 、賛同を得て、トレーニングと意識向上のプログラムを確立していく。
・脅威情報とセキュリティーのベストプラクティスに関する政府と業界間の情報交換が重要であるため、パートナーシップを強化する。
日本企業でも重要インフラ事業者だけでなく自動車産業などでも系列ごとにこのような取り組みを実践されている場合もあり、多くの場面で既に定着しつつある。
とは言え、実際の現場では三つ目の項目で言及されている重要な資産の特定と優先順位を設けた保護において未だ不十分な場面も多々見受けられ、リスク管理の精度を高め続けていく必要がある。
また、これまでも各所で述べられてきたようにファイアウォールの使用、特権アクセスを最小にすること、マルウェアからの保護、タイムリーなソフトウエア更新などの実施についても前述の大統領令では推奨されている。
セキュリティー対策に特効薬は存在せず、基本的な対策・対応を日々積み重ねていくことが重要である。
出典
*1 https://autoriteitpersoonsgegevens.nl/nl/nieuws/boete-bookingcom-voor-te-laat-melden-datalek
*2 https://www.risktaisaku.com/articles/-/49112
*3 https://cyber.dhs.gov/ed/21-02/#supplemental-direction
*4 https://docs.microsoft.com/en-us/windows/security/threat-protection/intelligence/safety-scanner-download
*5 https://msrc-blog.microsoft.com/2021/03/16/guidance-for-responders-investigating-and-remediating-on-premises-exchange-server-vulnerabilities/
*6 https://www.dni.gov/files/NCSC/documents/supplychain/FINAL_NCSC_Press_Release_
Supply_Chain_Integrity_Month.pdf
本連載執筆担当:ウイリス・タワーズワトソン Cyber Security Advisor, Corporate Risk and Broking 足立 照嘉
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスクの他の記事
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/26
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方