コロナ禍はこれからの防災に重要な学びを与えた
神戸大学・兵庫県立大学名誉教授 室﨑益輝氏に聞く

 

神戸大学名誉教授・兵庫県立大学名誉教授

室﨑益輝氏 むろさき・よしてる

 

1967年京都大学建築学科卒業、71年同大学大学院工学研究科博士課程単位取得退学。京都大学助手、神戸大学助教授・教授を経て、98年同大学都市安全研究センター教授。その後、独立行政法人消防研究所理事長、消防庁消防研究センター所長を務め、2008年関西学院大学総合政策学部教授、17年兵庫県立大学減災復興政策研究科長。中央防災会議専門委員、日本災害復興学会会長、地区防災計画学会会長などを歴任。「大震災以後」(共著、岩波書店)「震災復興の論点」(共著、新日本出版社)など著書多数。

コロナ禍は企業防災にどのような学びを与えたのか(写真:写真AC)

政府の感染症政策が転換し、3年に渡ったコロナ禍が終息へ向かっている。この間、社会の弱点がいくつも可視化され、対応が加速するとともに、新たな問題も浮上。防災においても多くの工夫が生み出されると同時に、従来のリアルなコミュニケーションは後退した。いま、再び環境変化のときを迎え、企業は何を見直し、何を継承すべきか。再スタートにあたっての課題を神戸大学名誉教授および兵庫県立大学名誉教授の室﨑益輝氏に聞いた。

これからの防災活動に必要な4つの視点

――政府のコロナ政策が転換点を迎え、社会は元の姿に戻りつつあります。防災活動も再スタートとなりますが、どのような点に配慮すべきですか?
第一に問うべきは、この3年間、どういう姿勢で防災と向き合ってきたかです。通常業務にしても、やめられないものは感染対策を取りながら続けてきたわけですね。防災活動も同じで、訓練は本来やめてはいけない。そうした意識を持っていたかが問われます。

オンラインを使って密を避けながら訓練を行ってきた組織もあるでしょう。感染を防ぎながら避難所を設営する訓練を行ってきた組織もあると思います。工夫をすれば、いろいろな活動が可能だった。もしそれができなかったとすれば、そこは反省点です。

防災訓練をやめたということは結局、災害は起きないと思っているということ。厳しいようですが、意識が低いといわざるを得ません。まずはそこから、この3年を振り返ってほしいと思います。

第二は、まさにいま申し上げた工夫です。実際、防災シンポジウムなどはオンラインに切り替えることで参加者が大幅に増えた。コロナ禍を克服しようとするなかで新しい工夫が生まれ、それが新しい可能性につながっているわけです。

通勤ラッシュの緩和や働き方の多様化など、コロナ禍で見出された生活スタイルは社会問題への対応を加速させました。ですから、コロナが終息したからすべて元に戻すというものではない。防災の新しい可能性につながる取り組みは継承していくべきです。

例えば、オンラインを使った小単位の訓練。全員が集まる訓練は大きな会場がないとできませんが、オンラインを使えば小さな会場でもできる。部署ごとに行う、在宅勤務者とつなぐ、ゲーム要素を入れる、空き時間を利用するといった具合に、規模、回数、時間、やり方は多様。工夫の余地が大きく広がっています。

オンラインを使った小さな単位の訓練など、防災活動に工夫の余地が広がっている(写真:写真AC)

第三の視点は、コロナ禍からの解放によるリスクです。例えば昨年10月に韓国で起きたような群集事故。久しぶりにイベントが戻ってくると、以前より人が集まる可能性が高まります。気の緩みと群集が融合すると、事故のリスクが増大する。そこはよほど気を付けないといけないでしょう。

第四は防災体制の根本的な見直しです。コロナ禍が気づかせてくれた社会の弱点は数多ありますから、そこを改善する。例えば、避難所の過密問題。分散避難が推奨されていますが、しかしあまりそこを強調すると今度は逃げるべき状況で逃げない人を生み出すおそれもあります。

そうした長短を一つ一つ検証し、明日にも大地震が来るかもしれないという危機感をもって、防災のあり方を早急に見直す必要があるでしょう。