2023/04/26
コロナ後の防災
防災に生かすコロナ禍の学び
コロナ禍はこれからの防災に重要な学びを与えた
神戸大学・兵庫県立大学名誉教授 室﨑益輝氏に聞く
神戸大学名誉教授・兵庫県立大学名誉教授
室﨑益輝氏 むろさき・よしてる
1967年京都大学建築学科卒業、71年同大学大学院工学研究科博士課程単位取得退学。京都大学助手、神戸大学助教授・教授を経て、98年同大学都市安全研究センター教授。その後、独立行政法人消防研究所理事長、消防庁消防研究センター所長を務め、2008年関西学院大学総合政策学部教授、17年兵庫県立大学減災復興政策研究科長。中央防災会議専門委員、日本災害復興学会会長、地区防災計画学会会長などを歴任。「大震災以後」(共著、岩波書店)「震災復興の論点」(共著、新日本出版社)など著書多数。
政府の感染症政策が転換し、3年に渡ったコロナ禍が終息へ向かっている。この間、社会の弱点がいくつも可視化され、対応が加速するとともに、新たな問題も浮上。防災においても多くの工夫が生み出されると同時に、従来のリアルなコミュニケーションは後退した。いま、再び環境変化のときを迎え、企業は何を見直し、何を継承すべきか。再スタートにあたっての課題を神戸大学名誉教授および兵庫県立大学名誉教授の室﨑益輝氏に聞いた。
これからの防災活動に必要な4つの視点
――政府のコロナ政策が転換点を迎え、社会は元の姿に戻りつつあります。防災活動も再スタートとなりますが、どのような点に配慮すべきですか?
第一に問うべきは、この3年間、どういう姿勢で防災と向き合ってきたかです。通常業務にしても、やめられないものは感染対策を取りながら続けてきたわけですね。防災活動も同じで、訓練は本来やめてはいけない。そうした意識を持っていたかが問われます。
オンラインを使って密を避けながら訓練を行ってきた組織もあるでしょう。感染を防ぎながら避難所を設営する訓練を行ってきた組織もあると思います。工夫をすれば、いろいろな活動が可能だった。もしそれができなかったとすれば、そこは反省点です。
防災訓練をやめたということは結局、災害は起きないと思っているということ。厳しいようですが、意識が低いといわざるを得ません。まずはそこから、この3年を振り返ってほしいと思います。
第二は、まさにいま申し上げた工夫です。実際、防災シンポジウムなどはオンラインに切り替えることで参加者が大幅に増えた。コロナ禍を克服しようとするなかで新しい工夫が生まれ、それが新しい可能性につながっているわけです。
通勤ラッシュの緩和や働き方の多様化など、コロナ禍で見出された生活スタイルは社会問題への対応を加速させました。ですから、コロナが終息したからすべて元に戻すというものではない。防災の新しい可能性につながる取り組みは継承していくべきです。
例えば、オンラインを使った小単位の訓練。全員が集まる訓練は大きな会場がないとできませんが、オンラインを使えば小さな会場でもできる。部署ごとに行う、在宅勤務者とつなぐ、ゲーム要素を入れる、空き時間を利用するといった具合に、規模、回数、時間、やり方は多様。工夫の余地が大きく広がっています。
第三の視点は、コロナ禍からの解放によるリスクです。例えば昨年10月に韓国で起きたような群集事故。久しぶりにイベントが戻ってくると、以前より人が集まる可能性が高まります。気の緩みと群集が融合すると、事故のリスクが増大する。そこはよほど気を付けないといけないでしょう。
第四は防災体制の根本的な見直しです。コロナ禍が気づかせてくれた社会の弱点は数多ありますから、そこを改善する。例えば、避難所の過密問題。分散避難が推奨されていますが、しかしあまりそこを強調すると今度は逃げるべき状況で逃げない人を生み出すおそれもあります。
そうした長短を一つ一つ検証し、明日にも大地震が来るかもしれないという危機感をもって、防災のあり方を早急に見直す必要があるでしょう。
コロナ後の防災の他の記事
- 防災通じて生かし合えるか企業と地域
- 防災に生かすコロナ禍の学び
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方