羅臼だし――4月の気象災害――
知床連峰が生む山越え暴風
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2026/04/26
気象予報の観点から見た防災のポイント
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
表題から、知床特産の羅臼だし昆布を思い浮かべる向きがあるのかもしれないが、今回のテーマは北海道羅臼地方の局地風、だし風(かぜ)なのである。だし風とは、谷間から平地や海に向かって吹く強風をいう。4月に知床で発生した強風による事故と言えば、2022(令和4)年に半島の北西側で発生した知床遊覧船沈没事故の記憶が生々しいが、それはあくまでも事故であり気象災害ではない。羅臼だし風は、知床半島の南東側で見られる局地強風である。
記録に残る羅臼町最悪のだし風災害は、1959(昭和34)年4月6日に発生した。「雲のあい間から薄日がさし始めた午後〇時四十分頃三角山が風鳴りを始めたと思う間もなく、知床山系からアッという間になだれ落ちた黒い突風が雪を伴い荒れ狂い、一瞬のうちに出漁中の漁船十三隻と八十九名の生命を奪い、五・一〇災害に引き続き陸上建物にも甚大な爪跡をのこし、平和な村をして死の街に変え深い氷雪よりまだ冷酷な現実に村民をして呆然とせしめたのである。」と『羅臼町史』にある。このときのだし風は、地元では「四・六(よんろく)突風」と呼ばれている。今回は、「羅臼だし」を含む知床の局地風について調べてみる。
図1に地形図を示す。知床は、北海道の東部から北東の方向へ、オホーツク海に突き出た半島である。半島の長さは約70キロメートル、半島の根元の幅は約25キロメートルで、細長く尖った三角形が特徴である。半島は山脈をなしており、最高峰の羅臼岳(1660メートル)をはじめとする山々が連なり、知床連峰あるいは知床連山と呼ばれる。行政区画としては、根室振興局とオホーツク総合振興局にまたがり、山脈の稜線がその境界となっている。
気象の観点から知床を見ると、きわめて個性的な地形を備えている。知床半島は海の上に山脈がそびえた格好をしており、傾斜が急で平地は少ない。風にとって地形(山)が障害物であることは、本連載の2023年4月「やまじ風」でも述べた。愛媛県東部の局地風「やまじ風」の場合に四国山地の法皇山脈がその要因であったように、知床連峰は局地強風の要因となりうる。知床連峰によって起こされる強風こそ、「羅臼だし」にほかならない。
「やまじ風」の場合にそうであったように、山脈による局地強風は、山脈の風下側で発生する。「羅臼だし」は知床連峰の北西側から、稜線を超えて南東側に吹き下ろす強い北西風である。図1の地形図を見ると、知床半島には、山脈の稜線の直下を源とする多くの川があり、その流路に谷筋が発達していることがわかる。それらの谷筋は風の通り道となり、風速が一段と強くなる。なかでも、深い谷になっているルサ川、サシルイ川、羅臼川、松法(まつのり)川、知西別(ちにしべつ)川の河口付近で特に強まる傾向があることが知られている。
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