2018/12/07
防災・危機管理ニュース

(出典:Flickr)
トーマツは11月28日、「グローバルビジネス記者勉強会」を開催。ディレクターの茂木寿氏が、英国が欧州連合(EU)から離脱する期限が2019年3月に迫るなかで、英国とEUの間で離脱の条件や手続きを定めた「離脱協定」の交渉が難航している問題を取り上げた。最悪の場合、英国がEUから完全に離脱する、いわゆる「ハード・ブレグジット」が起こる可能性もあり、日系企業にも緊急時対応の確認を促した。
英国は、2019年3月29日の英国のEU離脱に向けて、英国とEUとの離脱協定について合意案をとりまとめ、11月13日に内閣で承認された。だが今後最大の焦点は、同年1月21日までにこの合意案の承認を議会でとりつけられるか否か。現在の下院では、与党・保守党議員に70人ほどの離反が生じており、現状で過半数に30〜40議席足りない状況だという。下院で合意案が否決されれば、合意なしの離脱(ハード・ブレグジット)が濃厚になる。
万一に備え、対応計画策定を
もし英国が合意条件なしに離脱すれば、2020年末までの移行期間はあるものの、大きな経済的な混乱が起きる。英国とEUの間で関税手続きや出入国管理が発生することになる。英国に生産拠点をもつ企業にとっては物流停滞が予想されるほか、企業は営業・販売に関する認可などがEUで無効となる恐れがある。
英国政府は合意なし離脱による国内企業への経済的損失を最小限におさえるため、8月から順次公式のガイドライン文書を公表している(※1)。文書はすべての企業に共通するものから、産業別のものまで106に達する。
また英国産業連盟(CBI)が9~10月に英国本土内の企業236社におこなった調査(※2)によれば、英国が合意のないEU離脱をした場合の備えとして、回答企業の58%が緊急時対応計画(コンティンジェンシープラン)を策定済みと答えた。具体的な計画としては、策定済み企業の56%が「英国外のサプライチェーンの変更」、44%が「在庫の積み増し」、30%が「拠点の国外移転」等が挙がった。
日系企業にとって英国は欧州市場参入の玄関口と位置づけられ、現在数千社の日系企業があるとみられる。特に英国に生産拠点を持つ自動車メーカーでは「(合意なしのEU離脱になれば)1カ月程度生産停止する」といった計画もあるという。
茂木氏は「個人的には『合意なしの離脱(ノーディール)は起こらない』と思っていたが、ここ1カ月でその可能性も考えざるをえない状況になっている。日系企業は早めに計画を策定し対応をしてほしい」と注意を呼びかけた。
※1
■ 英国政府が発表している合意なし離脱に関する準備のためのガイドライン等https://www.gov.uk/government/collections/how-to-prepare-if-the-uk-leaves-the-eu-with-no-deal#overview
※2
■ノー・ディール時の緊急時対応計画、大半の企業が年内に実施予定(JETRO)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/10/3531f4cc69a91e8f.html
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方