能登半島地震の被災地で、短時間で設置できる簡易住宅「インスタントハウス」が1000棟以上建てられ、住居や集会所、ボランティアの拠点などさまざまな用途に活用されている。開発したのは建築家で名古屋工業大(名古屋市)教授の北川啓介さん(49)。きっかけは東日本大震災の避難所で、小学生から掛けられた一言だった。
 「仮設住宅になぜ何カ月もかかるの。大学の先生ならすぐに建ててよ」。震災のあった2011年、避難所となっていた宮城県石巻市の中学校体育館を住宅支援のために訪れた北川さんは、この訴えに衝撃を受けた。長期化する避難生活を前に、「願いをかなえられないのが悔しかった」と振り返る。
 大学に戻ってもその言葉が忘れられず、研究員の妻とともに、短時間で設置できる簡易住宅の開発に着手。素材や設計を一から見直し、16年にインスタントハウスが完成。23年に屋内用もできた。
 屋外用のハウスは円すい形で、テント生地を送風機で膨らませ、内側にスプレーでウレタンの断熱材を吹き付ければ完成。断熱材が固まると壁の役割を果たし、柱がなくても形状を保てる。高さ約4メートル、広さ約20平方メートルで、保温性も高い。約1時間で設置可能で、23年のトルコ・シリア大地震でも3棟が建てられた。
 屋内用は段ボールのパーツを組み合わせるもので、わずか15分で作ることも可能だ。高さ約2メートルで天井や窓があり、連結することで広さを自由に調整できる。避難所となっている体育館などで寒さをしのぎ、プライバシーを確保するために使われている。
 能登半島地震の発生翌日、北川さんは手元の資材をレンタカーに積み、被災地に急行。屋外用ハウス数棟を建てると被災者に好評だった。大学を通じて設置費用の寄付を募ることにし、これまでに屋外用約100棟、屋内用約900棟を建てた。住居だけではなく、支援に来るボランティアの拠点や支援物資の集積所などとしても使われているという。
 さらに数百棟を建てる予定といい、北川さんは「住まいやプライバシーの問題を早期に解決し、ハウスが被災者の生活基盤になればうれしい」と話した。 
〔写真説明〕北川啓介さんが開発・設置した屋外用インスタントハウス=2月17日、石川県輪島市
〔写真説明〕住居として使われている屋外用インスタントハウスの内部=2月17日、石川県輪島市
〔写真説明〕公民館の敷地に屋外用インスタントハウスを設営する北川啓介さん=2月19日、石川県輪島市

(ニュース提供元:時事通信社)