太平洋戦争下、隠ぺいされた大地震と大被害
かん口令の強制と被災地の孤立無援
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2019/09/17
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
昭和19年(1944)12月7日の昭和東南海地震と翌20年(1945)1月の三河地震は、軍部によって報道管制が敷かれ完全に隠ぺいされた。当時、日本は太平洋戦争の最中であり、しかも敗色が濃厚となっていた。軍部は軍需工場の被害状況などの情報が連合国に漏れることを恐れ、情報を統制した。新聞・ラジオ報道を禁じたのである。昭和東南海地震は翌8日がマレー半島侵略3周年(大詔奉戴日)ということもあり、戦意高揚に繋がる報道以外の情報はより一層統制された(12月8日の各紙1面トップは、いずれも昭和天皇の大きな肖像写真および戦意高揚の文章で占められている)。言論・報道の自由などどこにもなかった。
地震に関する情報は、3面の最下部のほうにわずか数行触れただけで、具体的な被害状況は一切伝えられなかった。被害を受けた中部地方各地の住民や、学徒動員され愛知県半田市の中島飛行機の工場で働いていた学徒らには、被害について絶対に口外しないように、とする戦時統制に基づく通達によるかん口令が行政側からまわった。そのために、周辺や他の地域からの救援活動もなく、被災地は孤立無援に陥った。
◇
ただ、世界各国の震度計により観測・記録されたため、日本列島中央部に地震が起きたことは把握されていた。翌日のアメリカの主要紙は日本で大地震が発生したことや軍事に及ぼす影響のことを大きく伝えている。「ニューヨーク・タイムズ」は「地球が6時間にわたって揺れ、世界中の観測所が『破壊的』と表現した」と、大々的に報じた。「日本の中央部で大地震」といった見出しで、地域まで特定して見出しをつけたものもあった。
この地震の状況を心理戦として「ドラゴーンキャンペーン作戦」と名づけ、宣伝ビラ投下作戦をアメリカ軍が実行したとされる。B29から投下された宣伝ビラには毛筆で「地震の次は何をお見舞いしましょうか」と書かれていた、という。また、津波被害の資料となるアメリカ軍機による3日後に撮影した航空偵察写真が残されており、連合国側は状況を全て把握し、特に軍需工場などの戦略拠点の被害状況を注視した。地震から昭和東南海地震6日後の12月13日夜には、津波の被害にもさらされ惨事となっている名古屋地域の航空機工場を中心とする一帯に、アメリカ軍は大規模な空襲を行っている。
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年3月19日配信アーカイブ】
【3月19日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:副業・兼業のリスク
2024/03/19
リスク担当者も押さえておきたいサイバーセキュリティ対策の最新動向
本勉強会では、クラウド対応のサイバーセキュリティ対策の動向を、簡単にわかりやすく具体的なソリューションの内容を交えながら解説します。2024年3月8日開催。
2024/03/18
発災20分で対策本部をスタートする初動体制
総合スーパーやショッピングモールなど全国各地のイオン系列の施設を中心に設備管理、警備、清掃をはじめとしたファシリティマネジメント事業を展開するイオンディライト(東京都千代田区、濵田和成社長)。元日に発生した能登半島地震では、発災から20分後にオンラインの本社災害対策本部を立ち上げ、翌2日は現地に応援部隊を派遣し、被害状況の把握と復旧活動の支援を開始しました。
2024/03/18
能登半島地震における企業の対応レジリエンスの実現に向けて
能登半島地震で企業の防災・BCPの何が機能し、何が機能しなかったのか。突きつけられた課題は何か。復興に向けどのような視点が求められるのか。能登で起きたことを検証し、教訓を今後のレジリエンスに生かすため、リスク対策.comがこの2カ月の取材から企業の対応を整理しました。2024年3月11日開催。
2024/03/12
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年3月12日配信アーカイブ】
【3月12日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:東日本大震災 企業のハンズオン支援
2024/03/12
能登の復興は日本のこれからを問いかける
半島奥地、地すべり地、過疎高齢化などの条件が、能登半島地震の被害を拡大したとされています。しかし、そもそも日本の生活基盤は地域の地形と風土の上に築かれ、その基盤が過疎高齢化で揺らいでいるのは全国共通。金沢大学准教授で石川県防災会議震災対策部会委員を務める青木賢人氏に、被害に影響を与えた能登の特性と今後の復興について聞きました。
2024/03/10
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方