2024/04/16
事例から学ぶ
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチ(岡山県倉敷市、堀口真伍代表取締役)は高台に立地する工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。2023年5月には調達先の1社で事故が起きたが、別メーカーから仕入れることで解決した。
❶被害情報の入手に地域のつながりが助けになる
・ 浸水の第一報は、商工会青年部のグループLINEから。平時の地域活動が非常時の助け合いにつながる。
❷保険を活用したリスク移転
・ 工場は浸水の被害にあっていないが、保険の対象や補償範囲を見直し。目標復旧時間の3カ月を持ちこたえられる環境を整備。
❸調達先を分散化
・ 新たな取引をきっかけに、材料の調達先を分散化。メーカー事故にも速やかな切り替えで対応
恐れていたのはため池の決壊
2018年7月の西日本豪雨で最大の被害が発生した岡山県倉敷市真備町。地区を東西に流れる小田川とその支流の8カ所で堤防が決壊した。浸水面積は約1200ヘクタールにもおよび、約3割が浸水。最大で5mを越えて浸水したとみられ、約4600棟が全壊、同地区だけで災害関連死を除いて51人が犠牲となった。
真備町で木製のオフィス家具を製造するホリグチの代表取締役、堀口真伍氏は「緑豊かな町が、一面茶色に染まってしまった」と振り返る。堀口氏は前日からの大雨で7月6日の夜は消防団員として詰め所で待機していた。
一度、自宅に戻り階段を登っている最中に、突然、爆発音が聞こえた。「裏山が崩れたのか、ミサイルが飛んできたのかまったくわからなかった。とにかく子どもを促して、一緒に家を飛び出しました。山の向こう側がオレンジ色に明るくなっていた」と話す。
音の原因は、隣接する総社市にあったアルミ工場の爆発だった。近所では住宅の窓ガラスが割れた。
浸水を知ったのは、真備船穂商工会青年部のグループ LINE。7日午前1時45分ごろに決壊場所近くに住むメンバーが、自宅1階の浸水写真を投稿した。堀口氏は周囲に浸水の発生を伝えても当初は信じてもらえなかったという。「LINEで水が来ると気づけた。情報の重要性を実感した」と語る。
早朝になると自宅周辺まで水が迫ってきたため、近くの山にある寺に避難。すぐに避難者救出のサポートを開始した。水が引いてからも商工会青年部の仲間を通じて岡山県の内外から集まった物資を同社内で一時的に保管し、提供していった。
その後も商工会を通してボランティアなどの支援者をまとめるなど、復旧に尽力。現在までさまざまな活動で地域に貢献している。
真備町では西日本豪雨で商工業者の8割を越える501の事業者が被災した。ホリグチの工場と事務所は山側にあり高台に位置しているため無事だったが、他社に貸している旧工場の建物は2mほど浸水、自宅には濁流が目と鼻の先まで迫った。複数の社員が被災したため、会社をあげて従業員を支援した。
実は堤防決壊前の大雨段階で、堀口氏が危惧していたのは浸水ではなく、工場の上に存在するため池の決壊だった。2つのため池から大量の水が工場を襲う事態を憂慮していた。
消防団として出動要請される前の7月6日夕方にため池の管理者を訪問。水害を対象とした保険に加入していたのも、ため池があったからだった。止まる通信と物流に対抗事業継続で直面した最初の課題は、通信の確保だった。
電話、FAXを含め全ての通信網を光通信回線に置き換えていたため、復旧までに1カ月かかったという。その間、携帯電話のテザリング機能をフル活用して対応した。
電波が届きにくいため、出社前に軽トラックで移動してひと山越えて、携帯電話のテザリングを介してメールを送受信。受注書などは出社後にプリントアウトして事業を進めた。朝、昼、夜と1日に3回、移動しての送受信を繰り返していたという。同時に、真備町の道路に廃棄され、交通の障害となっている大量のゴミ処理に奔走していた。
輸送にも苦労したという。まず被災地では配送自体がストップした。そして全国各地で発送受付が一時的に停止された。工場を稼働させたくとも資材の入手が困難になった。輸送にめどが立つまでに2カ月ほどが必要だったという。
ホリグチでは真備町のある倉敷市ではなく、周辺自治体にある運送業者から協力を得て、その営業所で受け取るように対応を変えた。発送は自社のトラックで製品を持ち込んだ。「支援物資などが届く倉敷市を外す発想だった」と話す。
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