2024/04/15
事例から学ぶ

西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所(岡山県総社市、川上朋弘代表取締役社長)。工場の再開に向けて新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
❶西日本豪雨での爆発により壊滅的被害
・ 建物の一部や設備が粉々になるのダメージ。敷地内外に大型の落下物が散在。浸水で大量な泥も堆積。取引先からの支援で事業再開に向けて動き出した。
❷工場再開の障害は受電設備
・特別高圧用の受電設備の入手に時間がかかり工場再開のボトルネックに。
❸ 被災時に代替製造を依頼できる協力体制の構築
・ 信頼できる協力企業を見つけるのは、製品納入先のバッティングや従来の取引関係から簡単ではない。
爆発被害で燃える工場

熱した金属を叩いて成型する鍛造(たんぞう)技術を強みにする川上鉄工所は、西日本豪雨で爆発の被害を受けた。社長の川上朋弘氏は、その日、目の前に広がる状況を現実だとは思えなかったという。
「暗闇をなか、青白く光る月明かりに照らされながら屋根やガラス窓が吹き飛んだうちの工場が浸水しながら燃えていた。一時的に雨がやんでいて、まるで時間の流れが止まったよう。見たことのない光景だった」と話す。
川上鉄工所は西側を新本川、堤防の向こうの東側を一級河川の高梁川に挟まれた中州に立地する。総社市は、西日本豪雨で最大の犠牲者が発生した倉敷市真備町に接する人口約7万人の自治体。岡山県内では倉敷市に次ぐ被害が西日本豪雨で発生した。
大雨が続いていた2018年7月6日夕方、川上氏は新本川の様子を確かめに行った。普段より流量は多くなっていたが、過去にも経験してきた川の高さだった。堤防を登ると見える高梁川は、当時の社長で父親の川上陽亮氏が確認。通常の台風ほどの増水で、それほど気にとめるような流量には見えなかったという。
外出していた川上氏が自宅に戻ったのは同日の23時過ぎ。数分後に突然、大きな音が鳴った。しかし「何の音なのかまったくわからなかった」と話す。一瞬の出来事で、停電もなくテレビで事故などの速報が表示されることもなかったという。
実はこの音は、川上鉄工所の隣にある朝日アルミ産業からの爆発音だった。川上氏の自宅からは20~30キロほどの距離がある。浸水で工場に水が流入して爆発したとみられ、同社は2021年に倒産した。
工場が燃えているという最初の電話が知人から入ったのは、爆発音を聞いてからまもなくのこと。「金属を加熱する設備はありますが、自然に発火するようなものは何も置いてなかった。だから最初は見当違いと思っていた」と話す。
しかしその後、同様の電話が矢継ぎ早に入った。そこで川上氏は、5日前に入社したばかりの弟とともに工場に向かった。大雨のせいで通行止めがあり、迂回しながら向かうと燃えている工場が見えてきた。しかし、隣接する工場のどちらが燃えているのか判然としなかった。
さらに近づくと直前で警官に「この先は行けない」と止められた。「自分の会社が迷惑をかけているかもしれない」と粘ったが、取りつく島もない。なんとか別の道から近づいた。到着したのは、日付がかわったころ。車を降りて歩いていくと、目に入ってきたのが冒頭の光景だ。水の流入は新本川側からだった。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方