【シリコンバレー時事】次期米大統領選まで1年となる中、生成AI(人工知能)による情報操作への懸念が高まっている。画像や音声を自動で瞬時に作ることができ、ネガティブキャンペーンだけでなく、候補者の言動を捏造(ねつぞう)した動画などを容易に拡散できるためだ。連邦議会では規制の議論も始まったが、適用までこぎ着けるかは不透明だ。
 史上最弱の大統領が再選したら―。バイデン大統領が再選を目指すと表明した4月、共和党全国委員会は約30秒の動画をユーチューブに投稿した。「国際的な緊張の高まり」「金融システムの破壊」といったテロップに、紛争や銀行の経営破綻をイメージした映像が重ねられている。これはAIによって生成されたものだ。
 対立候補をおとしめるため、事実とは異なる言動を生成するのにも使われ始めている。共和党候補の一人、フロリダ州のデサンティス知事は、大統領首席医療顧問を昨年退任したファウチ氏とトランプ前大統領が抱き合う偽画像を投稿した。新型コロナウイルス対策を主導したファウチ氏だが、共和党支持者には批判的な人も多いだけに、トランプ氏支持から引きはがす狙いのようだ。
 これまでも選挙のたびに偽動画「ディープフェイク」が問題になってきたが、多くは人の手で加工されたとみられる。生成AIは、文章による指示を理解し、この作業の多くを代替する。
 リスクに対処するため、生成AIを手掛ける企業も動いている。米メディアによると、ユーチューブを運営するグーグルは、AIが生成した動画を明示するよう義務付ける予定。同社はAI生成物であることを確認できる「電子透かし」といった技術も開発している。
 対話型AI「チャットGPT」を開発した米オープンAIは、利用規約の中で一定の制限を設けている。例えば、政治キャンペーンの資料を大量に作成したり、政治活動を擁護したりする形での利用を禁じている。
 こうした中、上院民主党トップのシューマー院内総務の音頭で、AI開発企業首脳を交えた超党派での規制の議論が始まった。大統領選までに制度運用を始めたい考えだ。
 ただ、合衆国憲法が保障する言論の自由に抵触する恐れもあり、どこで線引きするのかは見解が分かれそうだ。共和党側が積極活用している事実もあり、「法案作成段階にはない」(上院議員)との声も出ている。 
〔写真説明〕米大統領選での誤情報対策を記したユーチューブ公式ブログの画面(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)