【台北時事】来年1月13日の台湾総統選が近づく中、中国の習近平政権は農水産品の禁輸措置で蔡英文政権を揺さぶっている。中国は近年、台湾に対する事実上の制裁措置として輸入停止を決定。しかし、中国に融和的な最大野党・国民党の支持者が多い地域で生産される果物については一部の輸入を解禁した。与党・民進党の地盤では業者から「国民党に投票するしかない」という声が出ており、習政権が実質的に国民党を支援する形となっている。
 ◇対話で「収入増」
 中国政府は2021年以降、台湾の農水産品に対して相次ぎ輸入停止措置を実施した。表向きは、害虫や薬物が検出されたことなどを理由としている。しかし、従来行われていた当局間の協議にも応じておらず、「一つの中国」原則を認めない蔡政権に対する経済的威圧の一環とみられている。
 主に東部・台東県で生産される果物のバンレイシは輸出の9割が中国向けだ。中国は21年にバンレイシを輸入禁止とした後、今年6月に禁輸措置の一部解除を発表した。台東県は国民党の地盤で、対中関係を重視している。県は中国側の意向を踏まえ、害虫対策として新たな包装設備などを導入。国民党所属の県幹部が訪中し交渉を重ねた。王志輝副県長は時事通信の取材に「積極的に中国側とやりとりし、解決策に取り組んだ」と説明した。
 台東県の果樹園を12日に訪れると、バンレイシが拳ほどの大きさに実っていた。今月下旬には中国へ出荷される見込みだ。生産者団体の会長を務める呉村田さん(47)は「中国への輸出が再開されてみんな喜んでいる。収入増が期待できる」と笑みを浮かべた。
 ◇損失広がる民進党地盤
 一方、民進党の地盤である南部の台南市などで有名な高級魚のハタやパイナップルについては禁輸解除のめどは立っていない。これらも輸出先の9割を中国が占めるため、経済的な損失が拡大している。
 10年以上ハタを中国に輸出してきた郭南輝さん(70)の4ヘクタールの養殖場は14日、閑散としていた。禁輸により、2年で800万台湾ドル(約3600万円)の損失を出し、養殖を中止した。郭さんはストレスが原因で脳卒中になったといい、現在は半身不随。「蔡政権は一般人の生活を顧みない。前回の総統選は民進党を支持したが、今回は国民党候補に投票する」と断言した。
 また、農業に詳しい台南市の元市議によると、地元のパイナップル農家も大打撃を受けている。元市議は「政府は農家の生存のために中国と話し合うべきだ」と主張した。 
〔写真説明〕取材に応じる台湾東部・台東県の王志輝副県長=12日、同県
〔写真説明〕中国に出荷する果物バンレイシを手にする生産団体会長の呉村田さん=12日、台湾東部・台東県
〔写真説明〕ハタがいなくなった養殖場を案内する郭南輝さん=14日、台湾南部・台南市

(ニュース提供元:時事通信社)