2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けたBCPと危機管理


BSIグループジャパン株式会社営業本部部長 
鎌苅隆志氏

2020年に東京オリンピックが開催されることが決まりました。大会コンセプト、またアピールポイントとして、「コンパクトな五輪」、「安心・安全・確実な五輪」が掲げられています。企業にとっては大きなビジネスチャンスが期待される一方で、利益を最大化させるために日常的な事故や不祥事への対応はもとより、環境負荷への配慮や、関連機関との連携など、さまざまな対策が求められます。 

国際イベントの開催方針は、ここ数十年で大きく変化しています。1964年の東京オリンピックの際は、集客数はもちろんのこと、日本の経済力を世界にアピールしようという意図が込められていました。あるいは大会開催に伴う技術革新、サービスの発展、こうしたことがテーマとなっていました。2005年開催の愛・地球博では、環境にやさしい、地球にやさしいことを考慮すべきだということが日本国内でも注目されることになりました。 

大きな転換期となったのは、2012年のロンドンオリンピック。これまでの環境に加え、経済効果や社会的な影響の側面を踏まえ、持続可能なイベントを実施する方針となり、そのマネジメントシステムとしてISO20121(持続可能なイベント運営のためのマネジメントシステム)が誕生し、採用されました。2020年の東京オリンピックもISO20121の認証に沿って運営することが既に発表されていて、オリンピック関連の事業を展開する上では、このコンセプトを念頭においた活動が必要となります。 

また、オリンピック開催後も持続する社会的影響であるこれらの効果は、レガシーという言葉で呼ばれています。オリンピックレガシーを最大化させることで、オリンピックによる間接的効果を成長戦略と結び付け、起爆剤とすることが2020年東京大会の最大の目的と言えます。 

直接的な経済効果は3兆円と言われていますが、間接的な経済効果はどの程度に上るのでしょうか。それ自体を試算することは難しいですが、まず第一に観光需要の増加が挙げられます。次に各地のインフラ整備の加速、技術革新に伴う設備投資などが挙げられると思います。世界中から非常に注目を集める期間ですので、企業にとっては非常に効果的なマーケティングの機会でもあります。また、その後の各種大型イベントの開催を誘致するきっかけになる可能性も大きいと思います。これらの効果を最大限に活用したいということです。 

では、経済効果や社会的影響という付加価値を持続させるために、企業はどう備えるべきでしょうか。そのためには、まずは想定されるリスクを特定する必要があります。リスクを特定し、受ける被害を最小限に留めることで、確実にチャンスを獲得するためです。つまり、どういった種類のリスクがあるのか理解しておく必要があります。それらを踏まえて、東京大会に備えたBCPを作成しておくことが理想です。 

通常、ISO22301などでマネジメントを行う際には、リスクの特定からは行わず優先業務の特定から行いますが、東京オリンピックの場合はリスクを特定することがある程度可能なので、まずリスクの特定から始めます。その後、重要活動の特定、依存度分析、BCP戦略の策定、BCP策定と、ISO22301とは少し違った流れになります。 

では、どういったリスクが予想できるのかというと、交通、物流、通信、テロ・災害、セキュリティ、エネルギー、東京への集中が一部ですが挙げられるかと思います。道路の渋滞によって、通常2時間で運べるものが半日かかるかもしれません。海外からの旅行者が一気に増えることで、公安、あるいは空港で通常通りに物流が流れなくなる可能性があります。次に通信ですが、一斉に膨大なデータが日本から世界に向けて配信されるのでリスクがあります。一番暑い時期に開催されるため、エネルギーについても心配です。また、開催前、期間中、開催後の3つのフェーズでリスクを特定するのも重要となります。 現段階においてはこれらリスクを特定する作業が一番重要な作業かもしれません。