新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業での人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。

座学だけでなく実体験を重視する

有馬祥子(ありま しょうこ)
コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット
HR第4部マネージャー
国家資格キャリアコンサルタント、認定ワークショップデザイナー・マスター。
教育体系構築や階層別研修、組織開発、女性活躍などのプロジェクトに従事し、従業員がイキイキと働ける組織づくりを支援している。

ーー企業の人材育成では、どのような教育方法がとられているのでしょうか。

管理職やリーダーを対象とした人材育成では、座学中心の学びだけでは現場で活用できる力が備わらないという課題があります。また研修で学んでも日常業務に戻ると目の前の仕事に追われ、せっかく学んだことを忘れてしまいがちです。そうした状況を踏まえ、最近では座学だけではなく、実体験からの学びを重視した教育スタイルがスタンダードになっています。

具体的には実践と振り返りを通して教訓を引き出し、次に生かす。「経験学習サイクル」と呼ばれる方法です。体験の重要性は「70:20:10の法則」としても有名です。これは、人が成長するための学びの構成比率を示したもので、70%は「業務上の経験」、20%は「他者との交流やフィードバック」、10%が「座学や研修」からというものです。つまり、実践からが、最も多くの学びを得られるのです。

アクションプランを立てる

画像を拡大 経験学習サイクル(出典:松尾睦『職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門』ダイヤモンド社 )

ーー「経験学習サイクル」を活かした教育方法について、教えてください。

具体的な取り組み例としては、まず座学の集合研修で必要な知識をインプットし、その後、自身の業務に直結した「アクションプラン」を立てます。例えば、「自部署の残業を減らす」「●●トラブルの減少」など、現場で実際に取り組むことができるテーマを設定して、実施計画を作ります。次に、その計画に従い3カ月や半年のように一定期間、試行錯誤しながら実際に取り組んでもらいます。

そして、再び集まって成果発表会などの形で、自らの取り組みを発表して振り返り、他の参加者と共有します。このプロセスを経ることで、単なる学びで終わらず、行動につながる経験を得ることができます。

ーー成果発表会まで視野に入れると、研修担当者と参加者の負担は大きそうです。

組織的に負担がかかることは事実です。参加者はアクションプランや発表資料の作成、研修担当者は成果発表会の準備や運営など、通常業務との両立が求められるため、ためらう企業も少なくありません。しかし、座学を中心とした研修のみやアクションプラン作成までといった中途半端に実施するよりは、明らかに効果的です。

また、成果発表会は、組織内で成功事例を共有する機会にもなります。他者の取り組みから新たな気づきを得たり、同じような悩みを抱えている人から解決するためのヒントをもらったりと、組織的にプラスの効果が期待できます。発表会に上司や経営層が参加できれば、取り組みへの動機づけにもつながります。

このように一度、業務上の課題を見える化して解決に導けると、次のテーマへの着手もスピーディです。学ぶだけではなく行動する。いかに行動させ経験を積むかが重要になります。